ドイツ、メルケル政権が崩壊の危機……。それを救ったのは意外な2国

スペインとギリシアが手を差し伸べた理由

 折しも、スペインの政権は新政権が誕生したばかりであった。社会労働党(PSOE)の党首ペドロ・サンチェスがラホイ前首相に対し内閣不信任案を提出してそれが承認されてできた政権である。サンチェス新首相はメルケル首相との繋がりを深めたいとしており、それ対し、メルケル首相はスペインでの難民問題に関しての資金支援をすることを約束した。  また、チプラス首相にとってもユーロ圏財務相談会合でギリシャが金融支援に終止符を打つことができるようになったのもメルケル首相がギリシャへの融資を最初から積極的に支援していてくれていたからであるというのをチプラス首相は熟知しており、それに応える意味もあってスペインと同様にドイツからの難民の送還の受け入れを了解したのである。(参照:「El Periodico」)  スペインとギリシャの率先した姿勢を後から追うようにベルギー、デンマーク、エストニア、フランス、フィンランド、ハンガリー、レトニア、リトアニア、ルクセンブルグ、オランダ、ポーランド、ポルトガル、チェコ、スウェーデンの14か国が追随して、メルケル首相が要請しているドイツからの難民の送還の受け入れを受諾したのである。  その後、チェコ、ハンガリー、ポーランドは当初の態度を翻し、「合意はしていない」という声明を発表したが、仮にこの3か国が否定したとしても、スペインとギリシャを含め13か国がメルケル首相の要請を受け入れる姿勢を表明したことが、メルケル首相とゼーホーファー内相とのその二日後の合意を容易にしたのである。(参照:「El Mundo」)

反EU色を濃厚にしてきたイタリア

 一方、イタリアとオーストリアはこの受け入れを拒否したままである。この点にメルケル首相とゼーホーファー内相との合意が今後も継続されるか否か一つのカギを握っている。  即ち、イタリアが最初のEUの入国受け入れ国となってドイツに向かった難民をドイツがイタリアに送還しようとした場合に、それをイタリア政府が受け入れないという事態が発生した時が問題となってくるということだ。  実際、現在のイタリア新政府は地中海で救出された難民の受け入れを拒否している。そのことから、ドイツから送還される難民をイタリアが受け入れるためには何か交換条件が必要となって来よう。  イタリアがドイツからの難民の受け入れを拒否した場合に、その影響がオーストリアに及ぶことを避けたいとしてオーストリアのクルツ首相は両国との国境を強化する意向を示している。  引き続き、メルケルの苦悩は続きそうだ。しかし、彼女の存在無くして現状のEUは存続できないのは間違いがない事実だ。 <文/白石和幸 Photo: Arno Mikkor (EU2017EE) via flickr (CC BY 2.0) > しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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