ドラマ『孤独のグルメ』でも描かれた十条銀座周辺が再開発で危機

 テレビでも何度となく取り上げられ、ドラマ版『孤独のグルメ Season2』でも取り上げられたことがある東京都北区にある十条銀座商店街。  平日も賑わうこの商店街周辺のエリアが、超高層タワーマンションと幅20mの道路計画への反対運動で揺れている。  十条銀座商店街は昭和初期から商店が集まり、自然と商店街になっていったという歴史ある商店街だ。  脇道も入れると総延長約800mある長い商店街の中に、およそ200もの商店がひしめき合っている。上にはアーケードがあり、天候を気にせず買い物を楽しめるとあって、シャッター商店街などが増える昨今において、平日でも活気ある商店街として知られている。

住民500人に立ち退きを迫る道路(補助73号線)新設計画

「このアーケードもわざわざ不燃材料で新しく作ったものなんですよ。だから、都は『道路は火災時の延焼防止だ』というけど、そもそも商店街自体が延焼を防ぐのに役立つものなんです。そういうことを言っても役所は”部署が違う”って、シラを切るんだ」  そう語るのは、「庶民のまち十条を守る会」の世話人である伊藤勝さんだ。  十条の住民や十条銀座の商店主は、120人の連名で2017年8月に東京都を相手取り2つの裁判を起こした。 「東京都と北区、そして東急不動産は、この商店街の入り口、駅前ロータリーのところに40階建て、高さ140mの超高層マンション建設を含めた総工費245億円の駅前再開発計画を進めています。さらに問題なのは、この商店街の10mほど離れたあたりに、商店街と並行して幅20mほどの『補助73号線』を140億円かけて作るって言うんです」(伊藤さん) 「『補助73号線』の計画が進めば、いまは長く歩ける十条銀座商店街は、一部分断されることになるし、73号線の新設によって250軒、住民約500人が立ち退かなければいけなくなります。うちは長年乾物屋をやっているけど、倉庫が補助73号線に引っかかってしまう。大きな通りができて商店街への動線が分断されたら、客足も減ってしまいます」(住民訴訟の原告団長でもある「庶民のまち十条を守る会」の岩波建光さん。  それだけではない。この十条エリアでは、西口再開発・補助73号線のほか、埼京線高架化、85号線拡幅が実行された場合、立ち退き住民の総数は2100人近くにもなると言われている。そして、その政策を立案し、推し進めたのは、当時の都議会幹事長であり現衆院議員自民党・高木啓議員である。

70年前の忘れ去られた計画が突如復活

 問題なのは、その計画があることを商店街の人たちが知ったのは、ほんの6年前のことだったという点だ。  実はこの『補助73号線』の計画は終戦直後の1946年に戦後復興のために緊急を要する路線として定めたとされている。その後、70年近くの間、ほぼ忘れ去られた計画となっていたが、2011年に動き始め、2015年には事業認可されてしまった。2011年といえば東日本大震災のあった年。防災の計画が見直されて、過去の計画が動き始めたとも取れるが、事業認可が決定する2015年までの4年間で住民に対してきちんとした説明会が開かれたのはたったの2回。有無を言わさず事業認可が降りてしまったのだ。  東京都の建前はあくまでも都市直下型地震を想定した防災上の整備であり、補助73号線も延焼遮断帯として機能すると説明しているが、実際は「不燃化率が0.8%上がる」程度だという。不燃化素材を利用してそれ自体が延焼遮断機能にもなる商店街のアーケードと何が違うというのだろうか。 「建前は防災上の理由だとか言ってるけど、本当の目的は駅前西口の超高層マンション建設を含めた再開発が、70年前の道路建設を再開させた本当の理由だと思います」(庶民のまち十条を守る会世話人・榎本敏昭さん)
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同意者数を「改ざん」か?
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