米国が抜けた後、TPP交渉を牽引したのは日本だ。EU離脱を決めた英国が、TPPへの参加を検討中といわれる。米国が保護貿易に舵を切る今、自由貿易に日本が果たす役割は重みを増している 写真/AFP=時事
電撃的に決定した米朝首脳会談は中止かと思いきや、一転、無事に開催された。世界がトランプ大統領に振り回されようとも米国経済の絶好調は続くが、そんな’18年上期の経済トピックをチェック!
日本も巻き込まれるのか? 過熱する米中貿易戦争の行方
米国第一主義を掲げるトランプ大統領が、鉄鋼とアルミに追加関税を課したことが契機となり、米中貿易摩擦が激化している。標的となった中国は、すかさず米国が輸出するナッツ類や豚肉に追加関税をかける報復措置に出たが、これに対し米国も、中国による知的財産権侵害の制裁措置として、“伝家の宝刀”スーパー301条を発動。1300品目・500億ドルの追加関税を課すと発表した。6月2日に北京で開かれた米中貿易協議でも歩み寄りは見られなかったが、影響は拡大するのか? ニッセイ基礎研究所の三尾幸吉郎上席研究員が話す。
「米国の制裁で、中国からの輸入品に25%の追加関税がかかれば、単純計算で25%値上がりし、中国製品の競争力は低下します。米国への輸出は減り、中国は経済的ダメージを受けるのはもちろん、ただでさえ余っている余剰設備の問題が噴出するリスクが持ち上がる。また、米国企業もサプライチェーンのなかで、品質の割に安価な中国製品を買っており、割高になった米国製品も競争力を低下させる怖れも出てくる。
中国から輸入したスマホや衣料品の値上がりが米国人の家計を圧迫し、現在の好景気を支える個人消費に影を落としかねません。一方、米国からの輸入品に高率の関税をかければ、米国製品の競争力は低下するので中国への輸出は減り、対中輸出に大きく依存する米国の農業生産者には痛手となります」
関税の引き上げ合戦は、米中ともにメリットがないばかりか、世界経済への影響も甚大だ。三尾氏が続ける。
「サプライチェーンの中で適地生産することで効率化が図られ、世界経済全体が成長してきたのですが、貿易戦争はこれを阻む。しかも、米中はGDP1位、2位の経済大国なので、ほかの国への影響は避けられず、世界経済全体が縮小する懸念があります」