だが、もちろんデメリットもある。すでに建設がスタートしている宇都宮市・芳賀町のLRTは今でも反対の声が根強い。輸送需要の見通しの甘さやコスト面などが反対の理由として指摘されているが、背景にあるのは「LRTや路面電車を含めた鉄道への馴染みのなさ」という。
「宇都宮もそうですが、地方都市では日常的な交通手段はほぼ自家用車。通勤や普段の買い物などで公共交通機関を利用する習慣がほとんどないんです。さらに、LRTが専用軌道とはいえ大通りの中央部などに設けられることが多いので、車線減少などによる渋滞の悪化が懸念される。こうしたことから建設コストに見合ったものかという疑問が生まれるのでしょう」(前出の鉄道ライター)
こうした反対意見に対しては、丁寧に路面電車・LRTのメリットを説明するしかないだろう。例えば、高齢者が増加、すなわち“交通弱者”が増えていくなかで、バリアフリーのLRTはクルマの運転ができなくても彼らに外出する機会を確保することにもつながる。しばしば発生する高齢者の運転ミスによる痛ましい事故も、LRTを軸とした公共交通の充実によって防ぐことができるのだ。
「また、地方都市の公共交通といえば路線バスがありますが、どの路線バス事業者も深刻な運転手不足に悩まされています。路線バスと競合することから調整が進まないLRT計画もあるようですが、輸送量の多い都市の中心軸をLRTが担い、そこから枝分かれする比較的需要の少ない路線をバスが担うなど、明確な役割分担によってバス事業者の負担を減らすこともできます。そうなれば、運転手不足の対策にもなりうる。もちろん赤字バス路線に対する行政からの補填は不可欠ですが、人口減少社会においていかに地方都市の公共交通を維持していくかという観点では、LRTは大いに有効だと思われます」
全国的に見れば、路線の縮小が続いている日本の鉄道網。路線バスを含めて地方の公共交通機関は大変苦しい状況にあることは間違いない。だからこそ、鉄道や路面電車・LRT、バスなどの公共交通機関がバラバラでは効率も悪いし、持続可能性などは到底望めない。
路面電車・LRTを都市内交通の中心に据えて、複数の公共交通機関が連動するような仕組みづくりを積極的に考えていく必要がありそうだ。
<取材・文/境正雄>