人間には保守的傾向があり、意識して補正しなければ公平中立な社会は失われる
そんな中、世界的に右傾化の波が押し寄せている。歴史的必然があるのかもしれないから、それでもいいじゃないかという意見もあるだろうが、基本的人権の尊重や自由や公平な権利の社会をよしとするなら現在世界で進行している右傾化とは相容れない。
右傾化の先にある社会がどのようなものかはロシアを見ればわかる。民主的な手続きで選挙などは行われるが、実際にはそうでないことは明白だ。これはilliberalism(ニセ民主主義、不自由な民主主義などと訳される)と呼ばれ、形式上民主主義の形を取っているが、実際にはそうではなく大幅に個人の自由や権利が制限されている社会だ。
ロシアはilliberalismであり、前述の東南アジアの国も同様である。そして日本もじょじょにそちらに移行しつつある。
基本的人権の制限あるいは削除を政府の人間が言い出すことはその兆候と言える。
日本で広まっているネット世論操作のテーマの多くは、
図6に示したようなものだ。「嫌韓」「嫌中」をEUなどに入れ替えれば、illiberalismが台頭している他の国によく似ている。
人間にはもともと保守的傾向があり、意識して補正しなければみんなが基本的人権の尊重や自由や公平な権利を持つ社会は失われる。民主主義は死に瀕しており、その代替案がいつか見たことのあるような全体主義では、その結果もわかっていると思うのだが。
◆シリーズ連載「ネット世論操作と民主主義」
<取材・文/一田和樹>
いちだかずき●IT企業経営者を経て、綿密な調査とITの知識をベースに、現実に起こりうるサイバー空間での情報戦を描く小説家に転身。『
犯罪「事前」捜査』(角川新書)、『
原発サイバートラップ』(原書房)、『
サイバー戦争の犬たち』(祥伝社)、『
公開法廷 一億人の陪審員』(原書房)、『
天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)など著書多数