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両監督は、日本の平和主義に関する次回作をすでに撮影中。日本とコスタリカの両方を知る立場からインタビューを受ける筆者
昨年公開されたドキュメンタリー映画
『コスタリカの奇跡~積極的平和国家のつくり方~』。地上波のテレビでも特集が組まれ、公開が終了した劇場での再上映もされるなど、ここにきてじわじわと反響が広がっている。監督は、米社会学者のマシュー・エディとマイケル・ドレリング。両監督の来日に合わせ、互いにコスタリカをフィールドとする数少ない研究者として、コスタリカ研究者の筆者と鼎談した。
他国軍に侵攻されても、コスタリカの若者たちは「軍備放棄」を支持
足立:映画製作のきっかけは?
マイケル:マシューが博士論文の調査のためコスタリカを訪れたのがきっかけです。現地学生の意識調査を行なったのですが、その結果、
3世代前に行われた「軍備放棄」という改革を、調査対象者全員が強く支持していることがわかったのです。
マシュー:当時は、
ニカラグア軍の部隊がコスタリカ国境を侵犯した直後でした。それだけに、この調査結果にとても衝撃を受けました。軍事主義にまみれたアメリカとは対照的だと思ったのです。それで帰国後すぐ、当時私の指導教官だったマイク(マイケル)に「これは映画にして全米に広めた方がいい」と説得し、すぐ製作にとりかかったのです。
足立:アメリカでの反応はどうでしたか?
マシュー:観てくれた方は一様に感動していました。目に涙を浮かべている人すらいました。しかし残念ながら、それほど広がりを見せませんでした。
マイケル:『アルマゲドンへの投資』という本を出版した知人の研究者は、「アメリカ人は、自分たちが他からの絶え間なき脅威にさらされているという被害妄想を持っている」と指摘しています。多くのアメリカ人は、
心理的に「いつでも戦争できる」状態になっているんです。それは人間として非常に不健康な状態です。
マシュー:日本では、多くの人たちに観ていただいて、嬉しく思います。
憲法に書かれている平和主義の現実性を考えるための材料としてとらえられているのでしょう。
東西冷戦の中、軍隊廃止を宣言した元大統領はシビアな「現実主義者」だった
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マシュー・エディー共同監督
足立:軍隊の廃止を宣言した
ホセ・フィゲーレス・フェレールという人物(コスタリカ元大統領)は、謎に満ちています。彼をどうとらえていますか?
マシュー:彼は米国CIAとソビエト連邦の両方から資金援助を受けていました。しかし、彼が実現した政策を検証すると、米国の要求もソ連の要求も飲んでいません。彼は誰にも縛られない存在でした。
マイケル:かつ、
シビアな現実主義者でもありました。米ソ両国から資金を引っ張ってきたのは、自身が描く社会ビジョンを実現するためでした。のちに彼はそれを実現させています。
マシュー:同時に、平和への情熱を持ち続けていました。娘にもそれが受け継がれていますね。映画に出てくる彼の娘、
クリスティアーナ・フィゲーレス(注)は、特に環境、開発、気候変動問題に関して、世界中のあらゆる人たちから尊敬されています。
注:COP21(第21回気候変動枠組条約締結国会議)で、俗にいう「パリ協定」が締結されたときの同条約会議事務局長。同条約に加盟する196か国すべてが合意した初の気候変動対策協定となった。
足立:彼女が関わった
パリ協定の締結も「実現は無理だ」と言う人がいましたが、現実のものとなりました。
マシュー:彼女は現在、国連レベルで活動していますが、米国ですら彼女の存在は無視できません。
足立:夢を持った現実主義者ということですね。