「風邪に抗菌薬を処方」がなぜ良くないか? 現役薬剤師が解説

 2つ目の理由は「耐性菌が発生する」という点です。  実の話、これがかなり問題になってきています。  耐性菌とは何か?というと字のまんまなのですが抗生物質が効かない細菌のことです。90年前に抗生物質が発見され、細菌に対して対抗手段を得た人類ですが細菌の方も生存するのに必死です。60~70年代あたりに抗生物質が効きにくい細菌が出てきました。  医療現場だとペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)が有名です。  肺炎球菌はペニシリンが効いていたのですが、今から50年程前にペニシリンに耐性を持った肺炎球菌が発見されました。しかし、当時はすでにペニシリン以外の抗生物質も開発されていましたので、他の抗生物質を使えば何とかなりました。  問題は、その後10年ほど他の抗生物質を使い続けたら他の抗生物質も効きににくいという多剤耐性肺炎球菌が発生したことにあるのです。  PRSPは最初南アフリカで発見されたのですが、その後スペイン、フランス、ドイツなどでも発見され現在では世界中で発見されるようになりました。  そして、この現象は肺炎球菌だけに留まらず、他の細菌でも起こっています。

淋病が制御不能な感染症になる危険性も

 特に最近問題になってるのは淋病です。  もともと淋病はペニシリン、アミド、テトラサイクリン、マクロライドなど他の菌で第一選択としてよく使われる抗生物質に対して耐性のある菌株の罹患率が高いのが現状です。  現段階で淋病に単剤で効果的なのはセファロスポリン系の抗生物質のみなのですが、アメリカ大陸ではセファロスポリン耐性の菌株が2011年から15年の間で2.3%→7.9%に増加しており徐々に耐性菌の比率が増えています。  このままだと、淋病は制御不能な感染症となってしまうかもしれません。  こうして考えると抗生物質は人類の資源のような性質もあるのかもしれません。  また別の問題として抗生物質は体にとって良い菌も殺します。  例えば人間にとって有用な菌と言えばビフィズス菌や乳酸菌などが思いつきます。  しかし長期間抗生物質を使った場合体にとってこれらの有用な菌なども殺してしまうため、菌交代現象という現象を起こしてしまう危険性があります。さらに悪いのは、通常の菌が減ってしまった結果、普段あまり多く無い菌が増えてしまい体内の菌のバランスが大きく変化してしまうという副作用もあります。  これはかなり重篤な状況になることもあり、最悪死に至る場合もあります。  これらのことにより、WHOやCDCなどは抗生物質を適切に使うことを呼びかけています。それを受けて厚生労働省がガイドラインを2017年に出してから日本でもこの問題がフォーカスされるようになりました。  耐性菌が増えすぎて抗生物質の無い19世紀まで後退してしまうような未来にだけはなってほしくないと願っています。 一般人の知らない「クスリ」の事情 第3回 <文/長澤育弘> ながさわやすひろ●薬学部卒業後、救急指定病院在職中に認定薬剤師を取得。その後、調剤薬局やドラッグストア、在宅専門薬局で管理薬剤師を務める。2016年9月に「池袋セルフメディケーション薬局」(http://www.self-medication.co.jp/)を開局。「患者様が自分で健康を管理し自分で治療する」という促進を主な目的に掲げている。
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