宗教保守から弾圧されても、実は「犬の保護」や「女性の権利向上」を訴えるナイスガイも!? ブラックメタルバンドの素顔

女性の権利向上を訴え、犬の保護にも熱心

 思想に重きを置くことが重要であるブラックメタル。なかには思わずして政界に進出してしまった例もある。 「ノルウェーの老舗ブラックメタルバンド・DARKTHRONEのメンバーが、地元の町会議員に当選したこともあります。本人は人数合わせでお願いされてやむを得ず立候補したようで、この当選はあまり嬉しくなかったそうですが(笑)」(前出・岡田氏)  ’16年に起きたこのニュースは、音楽関連の媒体はもちろん、『ガーディアン』誌などの一般メディアでも取り上げられ、大きく注目を集めた。人に頼まれて立候補したら、受かってしまったというほのぼの感は、殺伐とした音楽性とは真逆。しかし、そんなストイックさがあるからこそ、真摯にブラックメタルを続けることができるのかもしれない。  また、政府やキリスト教原理主義団体と衝突を繰り返してきたポーランドのバンド・BEHEMOTHも、犬の里親を探す財団のチャリティーに協力するなど、“リベラル”な活動が顕著だ。同バンドはライブで聖書を破る、国章を反キリスト教的なデザインにアレンジするなどして、たびたび訴訟や抗議を受けてきた。  しかし、メンバーのFacebookページを見ると、女性の権利向上や中絶禁止法案への反対メッセージが投稿されており、単に「過激なことを言って人を怒らせてやろう」という雰囲気は微塵も感じられない。それどころか、確固たる信念があるからこそ、表現や思想の自由を守りたいという意志が感じられるのだ。  キリスト教圏で宗教右派に反対する、保守政党に対してリベラルなメッセージを発する……。そうして起きた衝突ばかりが報道され、悪魔主義と結びついて悪名が轟いているが、ブラックメタルバンドの多くは至極まともなことを訴えているのが実態だ。 「極悪そうな音楽をやっているバンドメンバーも、普段は他の人と変わらず生活している人がほとんどです。実際に家庭がある人も多いです。私が住むポーランドは、ブラックメタルファンでなくとも、長髪の男性やタトゥーが入った女性が珍しくなく、日本では目立ってしまいそうな見た目の人でも、こちらでは普通に仕事をしています。運送会社のドライバーやエンジニアなどもいれば、死体解剖師、政治家の汚職を取り締まる機関職員など、お堅い仕事をしている人もいるようです」  ブラックメタルに限らず、ロックミュージックは権力や大衆に対してのカウンターという側面を持っている。しかし、注目すべきは単にマスに対して異を唱えているという点ではなく、その中身だ。今でこそ“邪道”に見えるかもしれないが、数年後に振り返ってみたら、ブラックメタルバンドが一番進歩的で正論を語っていた……なんてこともありうるかもしれない。 <取材・文/林泰人 撮影/岡田早由>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン
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