アニメ×鉄道というギャップから注目を浴びている”聖地巡礼”。しかし、一方ではこうした傾向は最近に始まったことではないという意見もある。
「鉄道、特に地方ローカル線は独特な雰囲気を持っているので、ドラマや映画、小説や音楽など、フィクションの世界に登場することが多いんです。最近になってからメディアで取り上げられるようになりましたが、昔からファンは愛する作品に登場した鉄道風景を求めて旅をすることが多かった」
こう話してくれたのは、大の映画・ドラマファンという野上静一さん(仮名・40代)。自身も、多くの“聖地”に足を運んできたとか。
「例えば、伊予鉄道高浜線の梅津寺駅。ドラマ『東京ラブストーリー』最終回の舞台となった駅で、リカ(鈴木保奈美)がホームの柵にハンカチを結びつけたんです。放映から25年以上経ちましたが、今も梅津寺駅にはドラマファンの来訪が跡を絶ちません。また、JR因美線の美作滝尾駅は映画『男はつらいよ』シリーズ最終作に登場。寅さんが最後に訪れた駅として人気です」
思えば、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』に登場した三陸鉄道北リアス線がファンで賑わったのもつい最近のこと。古くは松本清張『砂の器』で知られるJR木次線亀嵩駅も聖地のひとつと言えるだろう。アニメばかりが取り上げられがちだが、こうした例は枚挙にいとまがないのだ。
たしかに、近年、経営難に苦しむローカル線が多いなかで、“聖地”になるか否かは路線の生き残りに大きな影響を及ぼしている。しかし、単に作品の舞台となるだけで儲かるほど、現実は甘くはない。30代のアニメファンは言う。
「アニメの舞台になれば聖地巡礼で人が来てくれると思っている地域もあるようですが、大事なのは作品の質。いかにも地域タイアップ感が強い作品だと、どうにも裏を感じてしまって行きたいとは思わないですから。これはドラマや映画でも同じだと思いますが、まずは“面白い作品”であること。それが聖地巡礼につながるのでは」
この意見を受けて、前出のローカル線関係者も「聖地巡礼に頼っていてはダメ」と話す。
「聖地巡礼で賑わえば、いっときは収益も改善するし町も賑わう。でも、その賑わいが永遠に続くわけではありません。何の手も打たずに喜んでいるだけでは、いつかブームが終わって元通り。いわば、廃線直前にたくさんの人が来る廃線バブルと同じなんです。重要なのは、聖地巡礼でもなんでもいいから来てくれた人に“もう一度来たい”と思ってもらうこと。そのための体制づくりを地域と鉄道事業者が一体となって行わなければ、聖地巡礼は一時的な延命措置に過ぎなかったということになってしまいます」
実際、『あまちゃん』効果で賑わった三陸鉄道も今では利用者が減少。ドラマ絡みで訪れる人はだいぶ少なくなったという。一部の地域が聖地巡礼で注目されていても、それは“作品の質”と“地域の受け入れ体制”がいずれも充実していたからこそ。鉄道事業者や地域に求められるのは、いつフィクションの舞台となってフィーバーがやってきてもいいような“おもてなし”の体制を整えておくことにあるのだろう。
<取材・文/境正雄 photo by
Vtwinpower via WikmediaCommons(CC BY-SA 3.0)>