炎上の”先輩”である筆者からすると、鈴木氏の戦略は間違えている
ネット界には、揶揄する対象にあえて「様」「さん」などの敬称を付ける文化がある。代表的なのが女性の呼び方で、「女様」「女さん」と書かれることが多い。
たとえば「【悲報】女性様、完全に男をなめていると判明」とか、「女様『40過ぎの独身男は気持ち悪いwwww』」」というものだ。いずれも女性が男性を見下しているのが腹立たしいとか、女性が男性に対して無理解であると非難するテンプレートだ。
こういうネットスラングを、鈴木裕行氏のようにツイッターやブログでの発信歴が浅い人物が、オピニオンの一貫として使うのは非常に難易度が高い。手垢のついたネットスラング(今回は「~様」)が、揶揄という言外のメッセージを伝えてしまうからだ。当人は「意図していない」と言ってもダメ。炎上とは非情なもので、意図していなくても不快感を与えたらおしまいなのである。
数ヶ月前に第一子が誕生したばかりという「イクメン」キャラの鈴木氏は、反響を受けて「そのような意図はない」と反論した。が、その反論がまた火に油を注ぐような言い方で失敗している。
「例えば、『ご老人には席を譲ろう』という社会通念と、ご老人自身が『私は歳をとっているから席を譲れ』と偉ぶるのとは別次元の話であることと近いかと思います。」(ツイートより引用)
悪気はないと証明するための例え話が、墓穴を掘っている。「老人には席を譲る」という社会通念と「老人が偉ぶる」ことは別次元だから、「妊婦の体調を優先する」という社会通念と「妊婦様が偉ぶる」ことは別次元だと言いたいのだろうが、別次元であることは本質的な問題ではない。
さらに言うと、彼はきっと「子供は社会で大切に育てるべき」という通念と「子供が偉ぶる」ことが別次元だからと言って、「『子供様』ってヤツ、ゾッとするわ」とは主張しないであろう。幼子の父であればなおのことだ。
結局、「~様」を援用した彼のツイートからは「老人や妊婦が偉そうにするな」というメッセージだけが伝わってしまう。そこが問題であり、鈴木氏が批判される所以だ。
「偉そうにするなとは言っていません」と弁明しても、そういう風に受け取られたことが批判されている。「普段から女性を見下しているのだろう」とのイメージが、彼の好感度を著しく下げてしまった。
以前、炎上してから辛酸を嘗めている筆者は、同じく炎上中の人を見るとヒヤヒヤする。今回の「妊婦様」発言は胸騒ぎがするし、ネットでは「失言しないこと」と「失言してしまったら潔く認めるか、無視を決め込むか」の両極端しか受け入れられないのだという点を改めて認識した次第である。どちらもできず、弁明を繰り返した鈴木氏は戦略的に間違っている。
下手な弁明をするくらいなら、いっそ「だんまり」を決め込んでケロッとしている方がまだマシなのだ。実社会のビジネスやプライベートでは許されない「批判を全無視」も、ネットでは「あの人は批判をモノともしないんだな」と認知され、ファンが増えることすらある(ただし実績がある人物に限るので、ブライダル関連会社を立ち上げたばかりの鈴木裕行氏にはあまり当てはまらないかもしれない)。
鈴木氏にはぜひ、「批判を全無視」ではない方向でもがいてほしい。そして、多くの人に参考になるブログやツイートを紡ぎたいのであれば、「妊婦様」などという手垢のついたネットスラングは金輪際、使わない方がいいと思う。
<文・北条かや>
【北条かや】石川県出身。同志社大学社会学部卒業、京都大学大学院文学部研究科修士課程修了。自らのキャバクラ勤務経験をもとにした初著書『
キャバ嬢の社会学』(星海社新書)で注目される。以後、執筆活動からTOKYO MX『モーニングCROSS』などのメディア出演まで、幅広く活躍。著書は『
整形した女は幸せになっているのか』(星海社新書)、『
本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)、『
こじらせ女子の日常』(宝島社)。最新刊は『
インターネットで死ぬということ』(イースト・プレス)。
公式ブログは「
コスプレで女やってますけど」