さらに、サウード家の王子の間でMBSへの反対勢力が強まることを導いた決定打がある。それは、昨年11月にリヤドのリッツ・カールトン・ホテルに、汚職の摘発だと称してサウード家の400人近い王子を二か月拘束して、彼らが汚職で得た資金の没収をしようとしたことであった。
拘束された人物の中で注目を集めたのはサウジの一番の富豪とされているワリード・ビン・タラル王子であった。彼の父親はサルマン国王の5歳上の兄である。父親はビン・サルマン皇太子のこの抑圧に強く不満を表明してサウード家の注目を集めるべく断食をしたほどだ。
拘束して資金を没収するとしながらも、結局最後に集めた資金は1060億ドル(11兆4000億円)で、当初政府が期待していた8000億ドル(86兆4000億円)を大きく下回る金額となった。
この拘束された人物のひとりに、アブドラ前国王の息子で前国家警備相ミトイブ王子もいた。
この拘束事件が決定的な切っ掛けとなり、サウード家の内部分裂を招く結果となったのである。
いまだ姿を見せないMBS。ビジョン2030はどうなる?
MBSへの信頼が損なわれている、というより本人が姿をくらませている中で、彼は「ビジョン2030」プランを遂行せねばならない。
これまでの原油に依存した経済体制から産業国家に移る改革である。このプランについて、外国からの理解と協力を得るために、彼はドローンが王宮に飛来してくる日の数日前まで英国、米国、フランス、スペインとほぼ1か月にわたり外遊していたのであった。
もし、あのドローン撃墜が、噂の通りクーデター未遂だったとしたならば、国防大臣でもある彼の外遊期間中に計画されたのかもしれない。いずれにしろ、真相についてはまだ明らかになっていない。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身