とにかく一刻も早くこの現状から開放されたい夫は、妻の離婚条件をちゃんと読みもせずに押印、妻はこれを盾に養育費を求めるも、当然ながら支払い能力があろうはずもない。
すると、条件はなし崩し的に住宅ローンの継続支払いというところで落ち着く。
夫はしばらく支払いを続けるが、久しぶりに顔を見たくなって会いに行くと、今度は子どもの態度に愕然とする。
子どもに家庭崩壊の元凶を作った、または自分を捨てたといって憎まれているケースもあるが、最も多いのは妻が夫の悪口のみを子供に聞かせていたというケースだ。
「あぁ。もういいかな」
結局、自分にはもう妻子だったと呼べる存在は残されていないのだと落胆した夫は、住宅ローンの支払いをやめる。
そして、我々がやってくるのである。
元妻たちは判を押したように元夫の悪口をぶちまけるが、我々はそれを初めて聞いたような顔をして聞き流しつつ、綺麗に保たれた物件を確認する。
もちろんこれはどちらが悪いわけでもない。
他人事だった不幸が突然身に降りかかり正気でいられる者のほうが少ない。ただ、ここで家族全員が一つになりさえすれば多くのケースが救われていたであろうということだけが残念でならない。
また、妻と夫それぞれが自分を「かわいそうな被害者」と思っているフシもあるが、本当の被害者は他にいる。それは、あるものを確認することでわかる。
子供部屋に残された痕跡だ。
物を投げつけたり、ペンを刺し傷ついた柱や机、ポスターの裏に隠された、誰にも表すことのできない怒りをぶつけたであろう壁の穴、思いの丈をぶちまけた落書き。
この感情の痕跡は、少なくとも部屋に飾られているダンスチームでの楽しげな日々の写真や、表彰状の数々よりも時期が新しい。
家庭内、特に両親の不仲や愛情不足が子どもに及ぼす悪影響は計り知れない。見落とされがちな児童虐待。それが「離婚」なのだろうと私は考える。
【ニポポ(from トンガリキッズ)】
ライターの傍ら、債務者の不動産を競売にかける『不動産執行』のサポートも行う。2005年トンガリキッズのメンバーとしてスーパーマリオブラザーズ楽曲をフィーチャーした「B-dash!」のスマッシュヒットで40万枚以上のセールスとプラチナディスクを受賞。また、北朝鮮やカルト教団施設などの潜入ルポ、昭和グッズ、珍品コレクションを披露するイベント、週刊誌やWeb媒体での執筆活動、動画配信でも精力的に活動中。
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