ベトナムで戦時行方不明者の身内を抱える人々がすがる「特殊能力者」

発見した戦時行方不明者の葬儀で起きた不思議なこと

「ある家族の父親の遺骨をティエムさんがみつけ、その葬儀にティエムさんに誘われ行ってみたんです。そのときに不思議なことが起こりまして……」

白い服の女性がホアン・ティ・ティエムさん。向かって左の男性が新妻氏。(新妻氏提供写真)

 ベトナム戦争で行方不明になった夫であり父親を家族は何十年も探してきたが、最終手段として霊能者に頼ることになった。そのときに担当したのがティエムさんだった。彼女は家族に父の遺骨を帰すことに成功した。その葬儀のとき、亡くなった父親とはまったく面識のない息子の妻がふらりと立ち上がり、葬儀に参列していた生存している戦友に話しかけ始めた。彼らに言わせると話し方が亡くなった父に似ていたという。また、家族でさえ知らない戦友の名前と思い出話を語った。そのときのティエムさんの様子も新妻氏は見ている。 「しばらくはティエムさんも静観していたのですが、それ以上長引くと身体を父親に乗っ取られるということでお祓いをしました。息子の妻はそのときのことをまったく憶えていないと言うんですよ」  新妻氏は、ハノイ在住15年で、当初は日系企業の駐在員だったが、紆余曲折あり、今は旅行代理店を経営するごく普通のベトナム在住の日本人だ。奥さんもベトナム人で、ハノイに根を下ろして生活している。55歳ということで、外語大でベトナム語を専攻した当時はやや変わり種ではあったかもしれないが、多くの企業がベトナム進出を望む現在から振り返れば、先見の明がある人である。  そんな人物が、目の前で起こった出来事を見ていながらも戸惑っている。それこそ科学では説明できないことを目の当たりにしたのだ。政府が認めない以上、ベトナム国内では非公式な活動になってしまう霊能力者の行方不明者捜索。信じるにせよ信じないにせよ、ベトナムでは、科学者団体もその存在を認め、なによりも人々がその力に頼り、実際に見つけている、不思議な力を持った人々が今もなお戦争で行方不明になった人々と今を生きる人たちを結びつけているのだ。 <取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NatureNENEAM)>
(Twitter ID:@NatureNENEAM) たかだたねおみ●タイ在住のライター。最新刊に『亜細亜熱帯怪談』(高田胤臣著・丸山ゴンザレス監修・晶文社)がある。他に『バンコクアソビ』(イースト・プレス)など
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