20億円詐欺の「若作りおばさん」があぶり出した女の虚栄心<北条かや>

 こういう技術をもった、山辺被告のような女は同性から嫌われる。根底に、「他の女性よりモテたい、より条件のいい男性を獲得したい」との欲望が透けて見えるからだろう。  その魂胆が明らかな「勘違いブス」は、特に嫌われがちだ。鏡を見なさい、身分をわきまえろということだろう。ブスのくせに上を目指そうという欲望が浅ましいのだ。私も勘違いブスだとよく言われるので分かる。  しかし、である。巷には、男にモテて周りがうらやむ生活を手に入れたいという「虚栄心」に満ちたコンテンツが溢れているのも事実だ。  女性ファッション誌の着回し特集では、「彼に愛されるカジュアルスタイル」と「上司ウケするコンサバワンピ」は違うと指南され、恋愛指南のネットコラムには、LINEの返信をどうすれば好かれるとか、愛される女の条件はこれだとか、そんなことばかり載っている。  恋愛テクニックで男を虜にし、幸せな恋愛を経て「周りから羨ましがられる」結婚、女の幸せライフへと持ち込もうとする。その魂胆が明らかなコンテンツは、ごくありふれたものだろう。  女性たちは、男性に合わせて自分の性的魅力を調整し、アピールするのが善だと洗脳されているようなものだ。根っこの部分に「もっと愛されたい、周りから羨ましがられたい」という女の虚栄心があるような気はするが、その虚栄心がどこまで生来のものかは分からない。社会が煽る生き方というものがあるからだ。  この社会の女が皆、もっている(と思われている)虚栄心の延長線上に、山辺節子というモンスターがいる。山辺も30歳までは専業主婦で、2人の子供をもうけていた。  さて、女性ファッション誌はこの虚栄心をあおる“茶番”に無自覚である一方、山辺被告は常に自覚的だ。自分は美人ではないからテクニックで男性を手に入れたと内省し、拘置所の中で「現実を受け入れる事がやっと出来た」と述べる。  意識の量は多いほうが面白い。だから山辺被告の手記は、女性ファッション誌やネットの恋愛コラムよりも、いくぶんかは読む価値があるだろう。  彼女が刑期を終えて拘置所から出てきた暁には、講演活動などを通して、後世の女性たちに「己の罪から学んだこと」を伝えてはどうかと思う。 <文・北条かや> 【北条かや】石川県出身。同志社大学社会学部卒業、京都大学大学院文学部研究科修士課程修了。自らのキャバクラ勤務経験をもとにした初著書『キャバ嬢の社会学』(星海社新書)で注目される。以後、執筆活動からTOKYO MX『モーニングCROSS』などのメディア出演まで、幅広く活躍。著書は『整形した女は幸せになっているのか』(星海社新書)、『本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)、『こじらせ女子の日常』(宝島社)。最新刊は『インターネットで死ぬということ』(イースト・プレス)。 公式ブログは「コスプレで女やってますけど
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