タイの卵は賞味期限1か月!? タイでも「卵かけご飯」は食べられるのか?

現地の普通のたまごではTKGは無理?

 ところが、卵かけご飯を低コストで食べる方法があると、タイ在住の会社員で、自らも料理を趣味として友人にふるまうという中村龍史さんに訊いた。 「うちで卵かけご飯をするときは、タイの店で買った、ごく普通の卵を使いますよ。タイの卵で気をつけるべきは殻の外側だと聞いているので、割る前にきれいに洗います」

一般のスーパーで売られる卵は糞や汚れが付着していたり、割れているものも多い

 鶏卵が食中毒を引き起こす原因のひとつはサルモネラ菌だ。日本では食品安全委員会が市販の卵を約10万個調べ、汚染されていたのは3個だけだったという結果があり、極めて確率が低い。タイでもサルモネラ菌による感染事例はあまり耳にしない。しかし、サルモネラ菌は気温10℃以上で発育し、特に20℃以上で増殖、37℃が最適な温度になる。ということは、タイの外気温は十分にサルモネラ菌を育てる状況が整っていると言える。

タイは雨期に洪水などが発生することもあり、ときにこれが原因で野菜などが汚染されて食中毒が流行することがある

 サルモネラ菌で食中毒になると、4~48時間の潜伏期間を経て、悪心や嘔吐、腹痛、下痢、発熱などを発症する。発熱は39℃以上になることもあり、脱水症状を併発し、子どもやお年寄りは命を落とす場合さえある。  にもかかわらず、中村さんはこれまで数えきれないほど、バンコクの自宅で、タイのスーパーで買った生卵を使って卵かけご飯を食べてきた。しかし、一度たりとも腹を下したことすらない。 「もちろんなるべく新しいものを選んで、1週間程度では消費するようにはしてるかな」  タイは東南アジア圏内では比較的衛生関係の法令が厳しい。そのため、まじめに法令を遵守して働く農場などの卵はきれいである。最近はオーガニックなど、タイ人も特に食べものと健康を気づかようになったため、より清潔な食品が増えた。だから、実はそんなに金をかけなくても、卵かけご飯をバンコクで食べることは容易なのである。それはちゃんと選べる目があり、自己責任であることを自覚できる人の話である。それができない人は少なくとも生食を前提に販売されている高価な卵を購入するべきだろう。

日本人経営の飲食店「黒田」が自社経営する農場の鶏小屋。ここまできれいな鶏小屋はタイでは珍しいが、徐々に生食鶏卵農家が増えているので、さらに環境がよくなりそうだ

どこの国だろうと卵の生食にはリスクはある

 そして、タイの高価な生食前提で販売される卵であろうと、日本の卵であろうと、リスクがないわけではない。  サルモネラ菌が卵に感染するのは糞便などから殻に付着する場合もあるが、もうひとつ、母体の卵巣や卵管がサルモネラ菌に汚染されていれば、卵の内部にサルモネラ菌が入ってしまうこともある。その場合は殻を洗うだけでは駄目で、加熱処理が必要になる。実のところ、タイであろうが日本であろうが、卵の生食はリスクがあるものだとは知っておくべきだろう。  それにしても、南国で蒸し暑いイメージがあるのに信じられないことだが、タイではいまだにレバ刺しや豚刺しなども食べることもできる。特にバンコクは「生」が好きな人には危険な誘惑に満ちているのだ……。

タイで生卵は食べないが、目玉焼きの半熟はタイ人も食べる

<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NatureNENEAM)>
(Twitter ID:@NatureNENEAM) たかだたねおみ●タイ在住のライター。最新刊に『亜細亜熱帯怪談』(高田胤臣著・丸山ゴンザレス監修・晶文社)がある。他に『バンコクアソビ』(イースト・プレス)など
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