平壌では「玉流館」や「清流館」、「安山館」などの冷麺専門店があるが、高級レストランであれば基本的にどこでも食べられる。味もさほど変わりがない(と、筆者は思っている)。
玉流館では「おかわり自由」だったり食後のアイスが出るなどの“おもてなし”が他所と異なる。
基本は水冷麺や「チェンバン」(平たい銀盤に盛った冷麺)であるが、中でも昨今、観光客に人気があるのが「フェ冷麺」だ。
日本や韓国ではあまり馴染みがないが、フェとは朝鮮語で「刺身」を意味する。生の魚肉が乗っているわけではなく、半生のタラの辛味噌和えに、コクのある辛くないダシスープを合わせたものだ。一般的にはキジや牛骨などを用いるが、筆者には魚のダシのように感じられた。
たったこれだけだが、無駄を削ぎ落としたぶん、スープと麺それぞれの味が調和しつつ際立っていた。これは、北朝鮮で食べられるどの冷麺にも共通している。一言で表すなら、「質実剛健」。「うどん屋の実力は素うどんで決まる」という言説を思い起こさせる。
また、大きな特徴は、フェ冷麺は細く柔軟性のある麺が旨味のあるスープであらかじめ和えてあり、スープ麺でありながら混ぜそばのように食べられる点であった。スープ麺のように食べたい場合は、付け合わせのダシスープ(冒頭の写真)を加える。
なお、フェ冷麺は100g、200g、300gと分量を選ぶことができる。シメで食べるには200g程度が適当な量のようだった。
この冷麺を日本や韓国で再現する手立てはあるのか?
在日朝鮮人の店では、やはり日本人の口に合わせているため全く同じものとは言い難い。北朝鮮の料理本「有名な平壌料理」では冷麺の作り方について「蕎麦粉を70度の重曹水でこねる」としか書いていない。
伝統的な調理法ではそば粉やドングリ粉に、ジャガイモの澱粉等を配合する。シコシコした食感は澱粉によるものだが、その比率は地域ごとに異なる。
唯一、少しだけ真似できるとすればスープではないか。日韓では変に辛く酸っぱいものが多いが、北朝鮮のスープは酸味や辛味よりもダシの旨味が強い。
一度、平壌の製麺所の厨房を覗いてみたいものだ。
【安宿緑】
編集者、ライター。心理学的ニュース分析プロジェクト
「Newsophia」(現在プレスタート)メンバーとして、主に朝鮮半島セクションを担当。個人ブログ
http://blog.livedoor.jp/yasgreen/
著書
「北の三叉路」(双葉社)。
ライター、編集、翻訳者。米国心理学修士、韓国心理学会正会員。近著に「
韓国の若者」(中央公論新社)。
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