「なぜ声を出せないかと言うと、一つは『移動の自由がない』ということです。技能実習生は一つの職場で実習を3年やるということになっているのですが、そこで嫌われると下手すれば強制帰国、それを逃れてもさまざまな理由で働き続けられなくなります。イジメられる、暴力を振るわれる、などです。そんな中で、権利主張もできなくなります。
そしてもう一つの理由は、送り出す彼らの母国のほうの問題です。彼らは技能実習生として来日する際に、保証金を取られ、違約金の契約をされています。違約金の契約は保証人がついていて、当然家族や親戚がなっています。日本で彼らが労働被害の申告をしたりすると、契約違反とされ、本国のほうで保証金を没収されたり、違約金を家族に請求されたりするんです。それが恐ろしくて何も言えないんです。
保証金徴収や違約金契約は、これまでも禁止されてきたし、今回、各送り出し国との覚書で禁止されましたが、本当になくなるとは思えません。さらに、送り出しの段階で本国の彼らの年収の何年分にも渡るような費用を借金してまで払ってきているため、その借金を返して、さらにプラスを得なければ、来た意味がないし借金だけ残る可能性もあるので、必死で働いて解雇されないように、強制帰国させられないように、何があっても我慢して働くしかないっていう状況に構造的に置かれているんです」
指宿氏は、そのような前提がある中で、単に期間を延長するような政府案をして、「労働者の人権保障も多文化共生も考慮しないという「移民政策」を導入するつもりか!?」と指摘したのである。
「報じられた政府案では、技能実習5年とさらに5年プラスして日本で働けることになりますが、その間は家族を連れてきてもダメで、通常10年いれば永住資格の資格要件を満たすことになりますが、永住認定は絶対与えないとしています。その理由の一つに、あくまでも技術移転の”国際貢献”の建前を守るために、一時的に帰国させるわけです。技術移転のための国際貢献なら、そんな短期間だけ母国に帰しても何を伝えられるのか疑問です」
ただ、今回の政府案について、指宿氏は評価できるポイントもあるという。
「一つは、5年間の特定就労が終わった後に『一般の在留資格』に変更ができる点は、今までの技能実習にはなかった考え方なのでこれは評価できます。実際に日本で働くミャンマー人の労働組合の人に聞いたら、いまミャンマーで実習生として日本に行こうとしている人の間で、もうすごく噂になってて、日本で10年も20年も働けるぞって、いい面だけが喧伝されて大変なことになっているそうです。
また、この政府案は“裏を返せば”評価できるものだとも思います。どういうことかと言うと、この政府案は、もはや技能実習制度が崩壊していることを宣言しているかのようなものだということです。国際貢献が名ばかりだということを実質的に認めて、外国人の単純・未熟練・非熟練という労働者を入れないと成り立たないという事実を、もはや政府は認めざるを得ないことの証左なのではないかと思うんです。
技能実習制度は本当に酷い制度になっています。移民という言葉を使わずに、実質的に移民を受け入れるために、ホンネとタテマエを使い分けて成り立っている。外国人を労働力として受け入れるということは、必ずそこで人間が来て、働いて生活して恋人ができて友達ができて、いろんなことが起こるわけじゃないですか。そこが全然考えられていない。モノとしてしか見ていないんですよ。
だからこそ、我々は、こんなあまりにも稚拙で、労働力の確保しか考えていない制度ではなく、移民を受け入れて多文化共生の社会にするためには、受け入れる側はどのような負担や覚悟が必要なのか、改めて考える契機になるのではないか? そうなるのであれば、この稚拙でメチャクチャな政府案も存在意義があるのではないかと考えています」
25日には、日本商工会議所が「専門的・技術的分野の外国人材受け入れに関する意見」として、現行の出入国管理制度では認められていない、一定の専門性・技能を有する外国人材を「中間技能人材(仮称)」と定義し、新たな在留資格を創設したうえで、積極的に受け入れていくことを要望する意見書を取りまとめた(参照:
日本商工会議所」)。政府・財界ともに、「移民ではない」と主張しつつ、なんとかして「外国人労働力を受け入れる」ようになりふり構わぬ状況になっているのだ。
現代の奴隷制度、「技能実習制度」の延長版や改悪版ともいえるような制度が生まれぬよう、注視していく必要がある。
いぶすきしょういち●弁護士(
暁法律事務所所長)、日本労働弁護団常任幹事、日本労働弁護団東京支部事務局長、外国人技能実習生問題弁護士連絡会共同代表、外国人労働者弁護団代表
<取材・文/HBO取材班>