労働者の賃金はゼロ成長。『21世紀の資本』が実証
2015.01.15
実に700ページにも及ぶトマ・ピケティ氏の著書『21世紀の資本論』が世界的ベストセラーとなっている。広がる格差と資本主義の矛盾を記したこの本が、なぜ今、人々を熱狂させるのか?今回「超難解」とも言われる同書を超カンタン解説する。
第2のポイントは、本書の核心を表す数式、「r>g」だ。r(資本収益率)がg(経済成長率)を常に上回るという意味だが、サッパリ意味がわからないので、大手シンクタンク・コンサルタントで評論家の山形浩生氏に説明してもらった。
【第1のポイント】はコチラ⇒http://hbol.jp/16463
「世の中でモノをつくるには、資本(お金、工場、会社の建物……など)と労働が必要となる。そして、みなさんが働くことで生み出されるのが、経済成長です。インプットしたモノより少し多めにモノをつくることで、経済は発展していく。例えば、会社なら利潤が生まれる。利潤の一部は、資本のためにお金を出した株主に渡され、もう一部が労働者の賃金となる。このとき、資本に回る分と労働者の賃金となる分が同じくらいなら、経済成長率、資本収益率、そして労働分配率(労働者の賃金に回る分)は同じくらいになるはず。つまり、『r=g』です。ところが、ピケティが明らかにしたのは、歴史を遡ると、労働者の賃金よりも資本に回るお金のほうがずっと多いという事実。つまり、『r>g』だったのです」
ピケティは、資本収益率(r)は平均4%程度に落ち着き、先進国の経済成長率(g)は1.5%ほどになることを実証している。
「例えば、投資信託やファンドなどの、資産を持っていれば年4%程度の収益を得られるということ。一方、経済成長率が1.5%とすると、所得も全体の平均で1.5%しか伸びない。となると低所得者の所得の伸びは、1%を割り込んでしまう。つまり、働いて得られる収入は、ほぼゼロ成長。ところが、資産を持っている人は、それだけで年4%ほどの収益を得られる。こうした状態が続けば、とてつもない格差が生まれる。実際、すでにそうなっています。これまでの経済学ではそんなことはない、とされてきただけに、この数式は衝撃的なのです」(獨協大学経済学部の本田浩邦教授)
確かに、20世紀半ばには通説のとおり、一時的だが「r=g」や「r<g」ということが散見されたという。
「重要なのは、経済学の常識では『r>g』の状態は続くわけがないとされてきたこと。『r≦g』が見られた20世紀後半は、経済学が発展した時期と重なる。自分たちの周囲だけを見て、理屈をつけていたが、ピケティが300年遡ってみたら、過去にそんなことはなかったし、今もそうでないことがわかった。働いても大して稼げないわけだから、当然、不満を持つ人が増えていく……民主主義社会の前提となる価値観が、大きく揺らいでいるのです」
日本の労働者は、いつ決起するのか。
「r>g」
『21世紀の資本論』の核心を表す数式。資本主義下では、r(資本収益率)はg(経済成長率)を常に上回る、という意味。つまり、投資で得られる利益の伸び率は、労働賃金の上昇率を上回る。資本主義の根本矛盾を表現
「世襲型資本主義」
「r>g」の社会では、ますます富んだ富裕層が、資産を子孫に残すので、所得の格差を決めるのは個人の能力ではなく、世襲で相続した資本となる。1世紀前のような世襲による階級が復活しつつある、とピケティは言う
「資本収益率」
株や不動産、債券などへの投資によって得られる利益の伸び率のこと。ピケティは、21世紀後半に向け、資本収益率は4%台前半となる一方、経済成長率が1・5%に低迷し、貧富の格差が一段と広がると予測している
【山形浩生氏】
大手シンクタンク・コンサルタント。評論家。翻訳家。近著『「お金」って、何だろう?』(岡田斗志夫との共著。光文社新書)ほか、著書多数
【本田浩邦氏】
獨協大学経済学部教授。専門は現代アメリカ経済論。共著に『格差と貧困がわかる20講』(明石書店)、『現代アメリカ経済分析』(日本評論社)
― ピケティ『21世紀の資本論』丸わかり解説【3】 ―
労働者の賃金はゼロ成長 とてつもない格差が発生!
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