富裕層は常に税制優遇される。『21世紀の資本』で読み解く資本主義の本性
2015.01.22
実に700ページにも及ぶトマ・ピケティ氏の著書『21世紀の資本論』が世界的ベストセラーとなっている。広がる格差と資本主義の矛盾を記したこの本が、なぜ今、人々を熱狂させるのか?今回「超難解」とも言われる同書を超カンタン解説する。
第3のポイントは、所得と富の不平等はさらに拡大する、という暗澹たる予言だ。ピケティは、2100年には格差が「欧州の18世紀からベル・エポック(19世紀末~第1次大戦)までの水準に上昇する」と予測。ちなみに、当時のアメリカでは、上位10%の富裕層が国全体の富の80%を占めていた。
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「アメリカで格差が大きくなっている理由の1つが、投資銀行など大企業の重役の所得が、やたらと上がっているから。彼らは『我々は優秀だから、正当な報酬』と主張するが、景気がいいときには、どの企業も儲かります。ほかの企業の業績が振るわないときに、ある会社だけが儲かっていれば、それは経営者の能力と言っていいでしょう。ところが、本書は役員報酬が上がったときは、経営者の能力など関係なしに、単に景気がよかっただけ……と示唆しているのです」(大手シンクタンク・コンサルタントで評論家の山形浩生氏)だが、この上位10%への富の偏りは、’40年代にガクンと急落する。第二次世界大戦が勃発したのだ。
「戦争経済のなかで、富裕層に大きく課税されたのと、インフレ抑制のために高額所得者の賃上げが抑えられ、富は平等化され、戦後までこの状態が続きました。だが、’70年代あたりから、かつて90%以上もあった高所得者への最高税率が引き下げられはじめたのです」(獨協大学経済学部の本田浩邦教授)
最高税率が90%超の頃は、アホらしくて重役会で賃上げが議論されることはなかったが、税率が50%にまで下がれば話は変わってくる。
「こうして高い報酬を得た重役たちは、稼いだカネをロビイングに注ぎ込み、自分たちに都合のいいよう税制を変えて、これによって儲けたカネをロビイングへ……と、アメリカでは悪しきサイクルができあがっている。一方、欧州では資産を運用し、利子で食べている層が復活してきている」(山形氏)
これが資本主義の本性なのか……。
「労働分配率」
簡単に言えば、企業の利益のうち、どの程度を労働者に還元しているかを示す数字のこと。これまでの経済学では労働分配率は安定している、とされたが、ピケティは先進国において労働分配率は長期的に低下する、と説く
「資本所得比率」
ストックである資本から得られる収益が、フローである所得の何倍かを示す数字。日本や欧州など低成長の国では、この比率が高くなってきており、資産を持つ者がますます富んでいく傾向が、この数字によって見て取れる
【山形浩生氏】
大手シンクタンク・コンサルタント。評論家。翻訳家。近著『「お金」って、何だろう?』(岡田斗志夫との共著。光文社新書)ほか、著書多数
【本田浩邦氏】
獨協大学経済学部教授。専門は現代アメリカ経済論。共著に『格差と貧困がわかる20講』(明石書店)、『現代アメリカ経済分析』(日本評論社)
― ピケティ『21世紀の資本論』丸わかり解説【4】 ―
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