事故があった平壌-開城高速道路は最高時速160kmで走行可能ではあったが……
22日夕方に北朝鮮南部で発生したバス事故は中国人32人が犠牲になったこともあり、日本をはじめ中国でも大きく報じられた。
27日の南北会談が行われる予定の板門店への観光から平壌への帰り道で起こった事故だった。中国人観光客32人死亡、2人が重傷。運転手を含めた北朝鮮人スタッフ4人全員死亡する大惨事だ。
中国では交通事故が日常的で事故死も多い。日本のように〇〇の事故から1年など事故を振り返ることもなく、淡々と起こったことを伝え、多くの中国人も一過性の事故としてすぐに忘れる。今回、大きく報じられたのは、中国人が巻き込まれた大事故だったこともあるが、先月末の中朝首脳会談で中朝関係が大きく改善の兆しを見せている中、北に対する心象悪化を遮断し、悲惨な事故だが、両指導者が被害者のために懸命な対応をしているというポジティブなイメージ作りに事故を転用していると見られる。
しかし、その一方でネット民がSNSに書き込んだ事故についてのコメントはすぐにキレイに削除された。
中国はネット規制王国なのでそれ自体は驚くことではないが、今回速やかに削除されたのは中国の国策に悪影響があると政府判断が働いたようだ。
WeChatでいち早く事故関連コメントが規制されたワケ
事故直後から、38人中36人死亡という死亡率の高さから中国の国民的チャットアプリ「WeChat」などでは、高速道路から落ちたバスのどの箇所のダメージが大きいなど事故詳細についての書き込みが相次いだが、「中国中央テレビ(CCTV)」の事故車映像に一瞬映る文字にネット民はざわついた。
ネット民は何を見たのか? それは、車体に書かれた「……NGLON…」という文字であった。これを見たネット民は、どうやら事故車が中国最大のバス製造メーカー「金龍客車」(金龍の海外向け車体にはKINGLONGと書かれている)製だった可能性をいち早く察したのだ。中国ネット民は、「おいおい、事故起こしたバスって金龍じゃね?」「中国のバスが北朝鮮で中国人を殺す……」のような書き込みが走り始めたのだ。
ちらっと映り込んだ「……INGLON…」の文字 (YouTubeより)
金龍客車は中国国内でダントツのシェアを誇り、中国政府は国策として金龍のバスを台湾やシンガポール、欧州など海外へ積極的に売り出している。対外的には、「なぜ中国メーカーのバスが北朝鮮に?」という批判が起こることを懸念したのか、中国政府は関連コメントを一掃し、その後は、金正恩委員長が翌朝、平壌の中国大使館や重傷者2人が入院する病院を異例の訪問しただの、習近平主席が特別医療チームを北朝鮮へ派遣したなど両指導者の迅速な対応をアピールするような記事で中国官製メディアは埋め尽くされた。