中国は、本当にサッカー強国になれるのか? 中国・新皇帝の野望<1>

中国語ができないままダフ屋と格闘。ようやくスタジアムに

 南京西路駅から上海申花のホームスタジアム・虹口足球場(本来簡体字で表記すべきところだろうが便宜上以下すべて日本漢字とする)までのアクセスは簡単だ。地下鉄二号線浦東国際空港行きに乗り、すぐ次の「人民広場駅」で8号線に乗り換えるだけである。  鉄道の上海駅からも非常に近く、本当の意味で市街地の中心部に存在するスタジアムである。駅とスタジアムは目と鼻の先なので迷いようがない。スタジアムの完成は1999年、地下鉄3号線の開通は2000年とのことだが、都市計画や建築など相当に考えて設計されていることがわかる。  筆者が到着した時にはすでに試合が始まっていた。当日券売り場を探すが、どこにもない。満員御礼状態らしい。こういう場合、タイなら名刺一枚出せば記者枠で入れてくれるし、昔韓国で超満員の野球場に行った時も、警備員を泣き落として中に潜入したこともある。  しかし、中国の場合は入り口という入り口がすべて公安警察に固められており、とてもシャレが通用する雰囲気ではない。天安門事件をライブで見てしまった世代としては、いろいろな意味で中国の公安警察とはことを構えたくない。  中から聞こえてくる歓声の音量からして、万単位の観客動員があることは間違いない。地下鉄駅からスタジアム入り口の間には、ダフ屋が多数出没している。何やら話しかけてくるが筆者は中国語は全く話せないので「我不通漢語」(私は中国語がわかりません)と繰り返す。  違っているのかもしれないが、意味は通じるはずだ。仮に通じなくても、現実に中国語のセールストークがわかっていないのは明らかだから中国語が話せないことだけはあちらも理解できるに違いない。  それでも筆者に食らいつくダフ屋がいた。中国語ではダメと悟ったのか、ひたすらsit, sit, sitと繰り返している。「立見席ではなく、ちゃんと座れる席だから」と言いたいのだろう。「多少銭?」(いくらだ?)と筆者は聞く。ダフ屋は計算機を取り出し「150」という数字をたたき出す。「Expensive(高いよ)!」筆者は叫んだ。これくらいならわかるはずだ。  ダフ屋は「120」という数字を入力してみせる。 「No, no, no, out of the question(話にならないよ)!」 再び筆者が大げさに右手のひらを振りつつ、拒絶するふりをする。  ダフ屋はここからは簡単に値引きには応じず、「120」で押し切ろうとする。 「100にしろ」今度は筆者がダフ屋から計算機を奪い取り、「100」と入力する。「Make it (百元)パイ・ユアン!」だんだんこちらの言葉まで英語と中国語がないまぜになってくる。  ダフ屋は仕方なさそうにチケットを差し出し、筆者は百元札を取り出す。たぶんボッタクリの部類なのだろうが、筆者は中に入った。 <続> 【タカ大丸】  ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』(三五館)は12万部を突破。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。  雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。公式サイト
 ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』は15万部を突破し、現在新装版が発売。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。10月に初の単著『貧困脱出マニュアル』(飛鳥新社)を上梓。 雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。
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