スタバが小江戸・川越に「町家」を新築!――「和」を意識した戦略、その意図は?

スタバ自体が観光地に!広がる「和」コンセプト

 近年、スターバックスコーヒージャパンは「和」を意識したコンセプトストアの展開を進めており、それらの店舗では鐘つき通り店と同様に通常のスターバックスでは見られない特別な空間やサービスが展開され、人気を呼んでいる。  2017年だけでも、新たなコンセプトストアとして京都の清水寺へと続く二寧坂にある古民家をリノベーションした「京都二寧坂ヤサカ茶屋店」、宮島・厳島神社の表参道商店街に立地する「厳島表参道店」、1911年に竣工(1981年復原)した木造駅舎である伊予鉄道・道後温泉駅内の「道後温泉駅舎店」を出店。いずれも人気観光地の一等地への出店であり、早くも観光スポットの1つにもなっている。

宮島の一等地に出店した厳島表参道店。建物内には地元企業による地ビールレストラン、スタンドバーも併設されており、コーヒーを片手に特産の牡蠣なども味わえる

 また、「和風コンセプトストア」の先駆け的存在であり、日本を代表する建築家・隈研吾氏の手掛けた木組み構造の外観が印象的な「太宰府天満宮表参道店」(2011年オープン)も、2017年末に開業以来初の大規模リニューアルをおこなった。  こうした文脈の中で登場した鐘つき通り店も「和」を意識し、周囲に溶け込む純和風の外観を持つ店舗を新築したかたちだ。

宰府天満宮表参道店。記念写真を撮る観光客も多い

 スターバックスで「和」が意識されているのは店舗だけではなく、近年の季節限定商品についても同様だ。たとえば、2016年秋に登場して話題を呼んだ定番の「ゆず シトラス&ティー」や、スターバックスファンにとっては毎年おなじみとなっている春の季節商品「SAKURAシリーズ」なども日本限定メニューで、いずれも「和」がコンセプトとなっている。

「スタバの基本理念」に沿った「和」戦略

 それでは、こうしたスターバックスの「和」を意識した戦略をどう捉えるべきか。そこには、それぞれの店舗が地域で末永く愛されるための「サードプレイス」(自宅や職場ではない、心地よい第3の場所)を提供するという発想が根底にありそうだ。  スターバックスは「人々の心を豊かで活力あるものにするために」というミッション(経営理念)を掲げ、人々に「サードプレイス」を提供することをビジネスコンセプトとしている。従来のスターバックスが持つ魅力に、日本人が自然と受け入れることができる伝統文化、そして四季の美しさなどを取り込むかたちでスタバ流にアレンジし、これまでにない「新たなスターバックスの体験」を届ける。そうすることが、人々に活力を与えていくような心地よい店づくりに繋がる――つまり、「和」をコンセプトとした戦略も、スターバックスの経営理念に沿った取り組みの1つであり、日本人に「サードプレイス」としての居心地のよさを感じて貰うための手段であるといえよう。

鐘つき通り店に掲げられた黒板

 小江戸・川越に登場した新たなスターバックス、鐘つき通り店。川越の魅力を楽しめる新たなコンセプトストアは、今まさにサードプレイスとして歩み始めたばかりだ。  果たして今年度はどこに、どのようなコンセプトストアが誕生するのか――コーヒーの芳醇な香りに包まれながら、そうした思いをめぐらせた。 <取材・写真/るた 文・若杉優貴 るた(ともに都市商業研究所)> 都市商業研究所 若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken
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