MWCには多くの日本企業出展社および関係者が参加していたが、そのうちのひとりからは、興味深い話題も語られた。MWCが開催国に与える経済効果についてだ。
「MWCは世界最大級の通信系イベント。開催国にもたらす経済効果も大きく、例えるなら、通信産業界のオリンピックです。スペインだけではなく、さまざまな国が誘致に力を注いでいる」
各年によって分析に数字的な差があるものの、ここ数年では、世界各国から10万人以上の参加者(一般参加者はひとりあたり最低約10万円のチケットを購入)が集まり、その全体的な経済効果は約4億7000万ユーロ(約616億円)にのぼるとされている。またMWC開催によって開催国に生み出される臨時雇用者数は、毎年1万人以上との分析もある。
ちなみに、現在の開催地となっているバルセロナは、カタルーニャ独立運動などで政情が不安定。そんな、政治的、経済的に「暗いムード」を打ち消すために、MWC開催がメディアによって大々的に報じられているという構図がある。実際、バルセロナの市中の人と話してみると「MWCに来たのか?」と、多くの人がそのイベントの存在をよく知っているようだった。
「現在、フランスなどもMWCの誘致合戦に名乗りを挙げているとされています。いずれにせよ、欧州各国で開催されるイベントで中国企業の存在感が増し続ければ、知名度やビジネスにおける地位はさらに確固としたものになっていくかもしれませんね」
CESやMWCなどはそれぞれに運営団体があり、中国企業が大口の参加者、もしくはスポンサーになったとしても、すぐに誘致場所の決定に大きな影響力をもたらすとは考えにくい。それでも世界各国で開催されているビジネスイベントにおいて、中国企業の存在は、量的にも質的にももはや無視できないレベルに達しはじめている。
「ここ1~2年で、CESやMWCだけではなく、ドイツで開催されるIFAなどでも中国企業の存在感が大きくなり始めている。あくまで個人的な印象ですが、技術的な主導権の面でも、欧米から中国に潮目が変わったような印象があります。どこまで躍進が続くか楽しみでもあり、脅威でもあります」(韓国テック系メディア記者)
ファーウェイは展示物はもちろん、多くのスタッフを現地に派遣していた
中国は現在、政府支援や知的財産権の保護などを強化しながら、“技術大国”として浮上しようとしている。が、それに対し「本当に実現するのか」と、まだまだ訝しがる欧米や日本のメディア・識者も少なくない。来年の今頃、世界各国のビジネスイベントの様相がどう様変わりしているのか。その“ビジネス界の風景”から、中国の躍進ぶりをチェックする必要がありそうだ。
<文/河 鐘基 photo by
Marco Verch via Flickr(CC BY 2.0)>
はじょんぎ●1983年、北海道生まれ。大卒後、会社員や編集プロダクション、週刊誌記者などを経て2015年にテクノロジーメディア「ロボティア」をローンチ。著書に『
ドローンの衝撃』『
AI・ロボット開発これが日本の勝利の法則』(扶桑社)など多数。アジア地域を中心とした海外テック動向の調査やメディア運営、コンテンツ制作全般を請け負う傍ら、大手経済・ビジネス・週刊誌などを中心にテクノロジーから社会・政治問題まで寄稿活動も続ける