私が子どもを議場に連れてきた理由~“日豪子連れママ議員”対談

対談写真

ラリッサ・ウォーターズ元豪州上院議員(左)と緒方夕佳・熊本市議(右)の対談は、ネットを通して行われた

 昨年11月、緒方夕佳・熊本市議が子連れで議会に出席しようとしたことが大きな話題になった。熊本議会事務局には緒方議員への行動に対する意見が支持・不支持含めて多数寄せられ、市議会は今年3月12日に会議規則を改正。「会議中は乳児を連れての出席を認めない」というルールを定めた。  一方、オーストラリアには子連れどころか議場で授乳まで行った議員がいる。ラリッサ・ウォーターズ元上院議員だ。彼女たちは何を思って行動にでたのか? 2人の“子連れママ議員”が対談を行った。

報道が市民の反響を呼び、議会が変わり始めた

ラリッサ・ウォーターズ元上院議員:はじめまして! 緒方さんがお子さんを議場に連れていったという報道を拝見しました。その後、何か進展はありましたか? 緒方夕佳議員:乳児を連れての議会への出席はその後認められなくなってしまいましたが、議員活動と子育てとを両立させるため具体的にどういった要望があるのか、議会側が話を聞いてくれるようになりました。例えば、採決と授乳のタイミングが重なった時どうしたらよいかなどです。  実はそのタイミングが重なって、投票し損ねてしまったことがありました。以前は議会事務局があまり協力的ではなかったんですが、今は子どもに何かあると議場に連絡をしてくれるようになりました。これは子どもを議場に連れてくる前にはなかったことです。 ウォーターズ:メディアの影響は大きかったですか?それともあなたの行動自身が変化の要因? あるいは両方? 緒方:メディアの影響は大きかったですね。報道を受けて、議会事務局には600もの意見が来たそうです。他の議員は当初、私に対して「子どもを議場に連れてきたこと」を理由に処分しようとしていたのですが、反響の大きさに影響されて、処分理由が「議事を40分遅延させたこと」に変わったのです。 ウォーターズ:あら。でもそれはよかったですね。議事をたった40分遅らせただけで、古い偏見に満ちた人びとを変えたんですから。

7か月の乳児を“傍聴人”扱い

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緒方夕佳・熊本市議。我が子を議場に連れてきたことで話題となった

緒方:仕事と子育ての両立に悩む女性はたくさんいます。悩んでいるからこそ、賛否両論に分かれたのだと思います。賛成してくれた方は「行動してくれてありがとう」とおっしゃってくれました。 ウォーターズ:私の時も大きな反響がありました。中でも多かったのは「私は子どもを職場に連れて行くことができないから、あなたができるといいですね」というものでしたよ。 緒方:一方で、男女双方から批判も受けました。ある男性優位の職場で働いている女性からは、私の行動が彼女の状況を悪くするとのお叱りも受けました。 ウォーターズ:私にも「議員と子育ては両立できない。片方に集中すべきだ」という意見がきましたよ。「政治家は恵まれているんだから自重しろ」とか。ほとんどが男性でしたが(笑)。  男性をどうやってこの運動に巻き込むかは重要ですね。仕事と子育ての両立に関して何が問題なのか、目に見える形で表現することで、理解してくれるようになる人もいます。これまで多くの女性たちは、自分たちが抱えている問題を隠すように生きてきました。真実を隠したら、力を持っている人たちが問題を理解してくれません。  ところで、そちらの議会のルールはどうなっていたんですか? 緒方:議会というのは基本的に男性的で、議場に子どもを連れてくることに関しては今まで何のルールもなかったんです。当初、赤ちゃんを議場に連れてくることを相談した時、議会からは何の反応もありませんでした。実際に連れてくると、事務局は「それはルール違反ではないか。傍聴人は議場に入れないというルールがある」と言い、突然赤ちゃんを“傍聴人”扱いし始めました。 ウォーターズ:バカバカしいですね(笑)。 緒方:ええ。7か月の赤ちゃんが。 ウォーターズ:議会を傍聴していると(笑)。そもそも私は、赤ちゃんのケアをしながら仕事をする権利を訴えたかったのです。
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オーストラリアでも起きていた“赤ちゃん退場事件”
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