私が子どもを議場に連れてきた理由~“日豪子連れママ議員”対談

オーストラリアでは、すでに授乳に関するルールがあった

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議場で我が子を抱くラリッサ・ウォーターズ元豪州上院議員。議長や多くの同僚たちに祝福されたという

ウォーターズ:私の場合ですが、実は、議場で授乳することは事前にルール化されていたのです。実際にやったのは私が初めてでしたが、私はルールを破ったわけではありませんでした。だから、私が授乳したことに関して、議会では誰も不満を述べませんでした。  私の同僚たちは喜んでいました。そこが緒方さんとはちょっと違うところでしょうか。子どもをケアする人が自分以外にいない場合は、議場に子どもを連れてくるだけではなく、授乳することもできます。お腹いっぱいになって眠りに落ちたらそのまま抱っこして、おむつ替えが必要な時は別室にて可能です。  もともと下院のほうが先にルール化されていたのですが、議長は同じルールを上院にも適用することに前向きで、実際そのようになりました。今では ・乳幼児(infant)であること ・子どもをケアする人が他に誰もいないこと ・議事を妨げないこと  を条件に同行が許されています。

オーストラリアでも起きていた“赤ちゃん退場事件”

ウォーターズ:実は、緒方さんのケースと同じような事件が、2009年にオーストラリアでもあったんです。  当時の上院議員、サラ・ハンソン・ヤングが2歳の娘を議会に連れてきていた時、突如予期せぬ採決が始まりました。その時娘を見てくれる人が誰もいなかったので、彼女は娘を膝の上に乗せて議場の席につきました。娘はおとなしくしていたんですが、議長が「議場に“よそ者”(stranger)がいる」と言い、「傍聴人は議場から出るように」と命令し、赤ちゃんを外に出さざるを得なくなってしまいました。  そうこうしているうちに投票が始まってしまい、サラは議場を出ることができなくなりました。赤ちゃんと引き離されてしまったんです。サラにとっては非常にストレスになる体験だったし、オーストラリア社会に対して非常に悪いメッセージを発してしまいました。  その時の教訓があったからこそ、私のケースでは事前にルール化をすることができました。当時は“よそ者”を議場に入れてはいけないというルールがあったので、議会はそのルールを厳格に適用しようとしたんです。  ですから、私はそのルールはアップデートされるべきだ、なぜなら子どもは面倒をみられるべきだからだと主張しました。女性議員やその家族を巻き込んだ議論が進められ、今に至っています。その結果、先に述べたような条件のもとで子連れOKになったんです。

議員が率先して行動することの意味

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議場で授乳した昨年は緑の党の副代表も務めるなど、ウォーターズ氏は豪州の代表的な政治家のひとりとして知られる

ウォーターズ:国会議員は、他の仕事より融通がきくと思われています。確かにその通りで、その意味で私は幸運だったかもしれません。誰もがそんなラッキーじゃないでしょう。職場改革で赤ちゃんのいる議員に優しい議会にする機会を得たのも、そのためかもしれません。 「私は子どもを職場に連れて行くことができないから、政治家であるあなたができるといいですね」という多くの意見と、「政治家は恵まれているんだから自重しろ」という正反対の少数意見は、どちらも私が議員だったから出た反応だと思います。  ただ、議会というのは、一般に思われているほど小さな子どもがいる母親に優しい職場ではありません。女性は少ないし、彼女たちも全員が現役の母親というわけではありません。オーストラリアの上院には託児所がありますが、3歳以上5歳以下、9時~17時しか受け入れてくれません。私たちの仕事は拘束時間が不規則だし、決して赤ちゃんや子育て中の親にいい環境とは言えません。  私たちは、公の場で授乳することを当たり前にしたいのではなく、赤ちゃんをケアするという基本的な権利を行使したいだけです。こちらでも古い考え方だと公の場で授乳するのはよくないとされますが、赤ちゃんがお腹をすかせてぐずり出したら授乳する、ただそれだけです。  私たち議員は意思決定機関という特別な場所で働いているのですから、意思をはっきり示すことが重要です。それによって社会に影響を与えることができます。私がその役割を担って、多くの女性を勇気づけられたことはよかったと思います。 緒方:私が行動を起こした理由のひとつも、若い母親女性に対して議会をもっとオープンにするためでした。これは世界共通の問題ですね。
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政治とは“善き意思”によって前進するもの
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