戦後史が作り出した“壮大な無駄”・「通勤時間」をなくす処方箋はあるか<北条かや>

夢のマイホームは郊外にしかなかった!?

 マイホームを求める家族のために登場したのが、団地や、戦前は山だった土地を切り開いて作られた郊外のニュータウン。  都心への通勤には1時間以上かかるのも当たり前になりましたが、それでも夢の庭付き一戸建てやマンションが手に入るならと、一家の大黒柱サラリーマンたちは次々と家を買い求めました。田園都市線の開発史などを見ると非常に面白いのですが、理想の住環境を手に入れようとして、日本人はどんどん職住分離を進めていったんですね。  ホワイトカラーの増加という産業構造の変化と、マイホーム主義というアメリカ型の理想像。この2つが組み合わさった結果が、通勤1時間を当然とする今の社会です。  平成も終わりに近づき、湾岸エリアのタワマンブームや(ワールドシティタワーズなんて1つの街ですよね、私はブリーズタワーが好きです)、新宿、渋谷、横浜へのアクセスが良い武蔵小杉のブームもありますが、これからも日本人の「通勤1時間ムダ社会」は変わらないと思います。  少子高齢化こそ進むものの、基本的に首都圏への人口流入は止みません。東京圏は拡大し続けます。昨今、「職住隣接」を理想として地方へ本社移転するIT企業や若者がニュースになっていますが、彼らはものすごく珍しいから目立つのであって、大企業や大学の郊外移転が進んでいるという話は聞かない。むしろ主な大学はどんどん都心回帰しています。  ただひとつ希望があるとすれば、戦後の郊外マイホーム主義を支えてきた「夫婦と未婚の子供からなる世帯」がさらに減少し、晩婚化・非婚化と高齢化で単身者世帯が増加していくことでしょうか。単身者なら都心でも住める物件が見つかりやすいので、これからは独身ビジネスパーソンによる職住隣接スタイルが増えるかもしれません。  しかし、都市部に増加するのは独身の労働者だけではない。未曾有の高齢化によって、これから単身世帯の多くを占めるのは高齢者の1人暮らしです。となるとそもそも経済自体が大丈夫か、と言いたくなってきますし、特に後期高齢者といわれる75歳以上の方ばかりのエリアは活気が失われがちで、未来には職住隣接どころか職があるのか不安です。  さて話が大きくなってきたところで冒頭に戻り、「ムダな通勤時間」の解消法はないのかといえば、それはもう戦後の家族システムと産業構造の問題なのでどうしようもない、というのが私の考えです。  まだまだ消耗し続けるのが、我々の定めなのかもしれません。 <文・北条かや> 【北条かや】石川県出身。同志社大学社会学部卒業、京都大学大学院文学部研究科修士課程修了。自らのキャバクラ勤務経験をもとにした初著書『キャバ嬢の社会学』(星海社新書)で注目される。以後、執筆活動からTOKYO MX『モーニングCROSS』などのメディア出演まで、幅広く活躍。著書は『整形した女は幸せになっているのか』(星海社新書)、『本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)、『こじらせ女子の日常』(宝島社)。最新刊は『インターネットで死ぬということ』(イースト・プレス)。 公式ブログは「コスプレで女やってますけど
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