“犯罪者の顔”は先天的に決まっているのか?
正解は、abcdが犯罪者の顔のサブタイプで、efgが非犯罪者の顔のサブタイプです。犯罪者の顔の方が相対的にバリュエーションが多いということです。
ただこの研究結果を解釈するには注意が必要です。最も注意が必要だと思われる点は、犯罪者顔と犯罪者には関係はあるものの両者の因果関係はわからない、ということです。
簡潔に言えば、犯罪者顔の者が罪を犯すのか、あるいは、罪を犯した者が犯罪者顔になるのか、どちらの方向に時系列が向かっているのかはわからないのです。
例えば前者の「犯罪者顔の者が罪を犯す」場合、「犯罪」衝動を引き起こす遺伝的な「何か(例:暴力性や粗暴さ)」があり、それが相貌を形作る上で何らかの影響を及ぼしているのかも知れません。
「犯罪者顔は非犯罪者顔に比べてバリエーションがある」
という本研究の結果から、犯罪者顔は普通の平均的な相貌から乖離しており、それがその顔の持ち主に一般生活を順調に送らせることを困難にしているのかも知れません。その結果が犯罪ということなのかも知れません。
しかし、そうであるからといって、犯罪者顔の持ち主が将来のある時点で確実に罪を犯すかどうかはわかりません。本研究の筆者によれば、89%の精度といえども、中国の0.36%という犯罪率を考慮すれば、犯罪者顔の人物が実際に罪を犯す可能性は4.39%にすぎないと言います(計算方法の詳細はWu, & Zhang, 2017を参照して下さい)。生育・生活環境次第で結末は大いに変わるでしょう。
一方、後者の「罪を犯した者が犯罪者顔になる」場合、罪を犯すことで感情に変化が生じ、それが日々の表情形成に影響を与え、表情筋の付き方、しわの形などに影響を及ぼしているのかも知れません。
「40歳を過ぎたら自分の顔に責任を持て」という格言にもあるように、私たちは経験的に日々の感情の蓄積や経験が顔を作り上げていることを知っています。例えば、日々、良く笑う人は目尻にしわが、よく考える人は眉間にしわが刻まれた顔になっています。
なお本研究が公開されて以来、この研究者らの予想を超えて様々な議論や誤解が生じているようです。本研究について議論を深めたい方は、参考文献を読み、正しい理解のもとこれからの顔認識技術の世界を探究して頂ければと思います。
参考文献
Wu, X., & Zhang, X. (2016). Automated Inference on Criminality using Face Images. arXiv preprint arXiv:1611.04135.
Wu, X., & Zhang, X. (2017). Responses to Critiques on Machine Learning of Criminality Perceptions. Addendum of arXiv:1611.04135.
【清水建二】
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。
犯罪者顔の者が罪を犯すのか? 罪を犯した者が犯罪者顔になるのか?
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。
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