なお、その発議に同意した人々、また規制に強く反対した国民には20~30代の若者が多かったとされている。前出の大手メディア記者A氏は言う。
「韓国で仮想通貨取引を行っている人々の多くは、“2030世代”。そこには、奨学金や学費に悩む大学生たちも含まれていると言われています。彼らにとって、仮想通貨は先行きの見えない人生に一石を投じる格好の投資手段です。韓国では、若者の失業率が高まる一方ですが、政府は自分たちの雇用をまったく生まない。それなのに、お金を稼ぐ手段は奪うのかと猛反発したわけです」
国民請願で支持を集めた発議案のタイトルは興味深い。ずばり、「<仮想通貨の規制反対>政府は国民たちにただの一度でも幸せな夢を見させてくれたことがあるか」だった。A氏は続ける。
「南北首脳会談を決めて、外交面で大きな成果を誇示している文在寅政権も、若者の失業率を解消する手立てをまったく見いだせていない。大統領就任前、それら若者の雇用問題を積極的に解決していくと、散々公約したのにも関わらずです。韓国国民が仮想通貨投資に熱中するのは、生来の博打好きという気質に加え、国家経済の未来をまったく信用していないという理由からかもしれません。2030世代が仮想通貨取引の中心にいるというのは、とても象徴的なことです」
文在寅政権は昨年、雇用奨励金など、史上最高額となる雇用促進予算(19兆2000億ウォン=約2兆円)を組んで、失業率対策に注力。が、今年1月に発表された韓国の青年失業率は、9.9%と過去最悪を記録してしまった。現在、韓国では、「実名制」など一部規制は施行されたが、「仮想通貨取引の全面禁止」というような強硬論は勢いを失っている。おそらく、役人も民意の反発に相当デリケートになっているのだろう。
国家経済への不安と、新しいお金・経済圏への期待がせめぎあう「韓国・仮想通貨劇場」。その終幕がどこに向かうのか、しばらく目が離せそうにない。
<文/河 鐘基 photo by
Marco Verch via Flickr(CC BY 2.0)>
はじょんぎ●1983年、北海道生まれ。大卒後、会社員や編集プロダクション、週刊誌記者などを経て2015年にテクノロジーメディア「ロボティア」をローンチ。著書に『
ドローンの衝撃』『
AI・ロボット開発これが日本の勝利の法則』(扶桑社)など多数。アジア地域を中心とした海外テック動向の調査やメディア運営、コンテンツ制作全般を請け負う傍ら、大手経済・ビジネス・週刊誌などを中心にテクノロジーから社会・政治問題まで寄稿活動も続ける