どうも我々は、出る杭を打ちたがるというか、「成り上がって良い思いをしている人々」に対して異様に厳しいようです。
アメリカでは2010年代に入ってから、富を独占する上位1%のお金持ちに対して、99%の一般市民が反旗を翻す「ウォール街を占拠せよ」運動が広がりを見せましたが、その際のスローガンは“We are the 99%”でした。
99%のマジョリティが、上位1%のスーパーリッチ層を批判する。なぜなら彼らこそが富を独占し、社会的な格差を増大させている巨悪だから、というわけです。
運動の成果をここで問う時間はありませんが、日本でも2008年のリーマンショック後、反貧困運動が盛り上がった時代がありました。
社会学者のトマ・ピケティは『21世紀の資本』の中で、近年「持てる者」が資産を殖やしやすい状況にある一方、持たざる者たちはますます困窮状態から抜け出るのが難しくなっていると指摘しています。世界的に低成長の今、経済格差は固定化しつつあるのです。
多くの港区女子たちだって、「99%」の我々サイドにいるはずです。ところがネットの世論は、上昇志向をあらわにした彼女たちをこき下ろすことしか考えていない。
1%のスーパーリーチ層を相手にしてみれば、港区女子たちも我々も仲間に変わりはないのですが、我々は港区女子に対して「ブス」とか「品がない」など低レベルな誹謗中傷を投げつけて溜飲を下げている。
あげく、巨悪であるはずの「ホンモノの富裕層(1%)」の存在を持ち出して、彼女たちをニセモノだと糾弾する。99%が展開する阿鼻叫喚の地獄絵図というと大げさですが、我々は日々のストレスを、その時々のメディアが提示するアイコンにぶつけてガス抜きをしているだけなのです。
どうせお金持ちの世界を批判するなら、もともとの上流階級や大企業に物申した方が少しでも社会的意義があると思うのですが、もうそんな余裕すらないのかもしれません。私の中にも、港区女子を妬んでしまう気持ちはあります。
港区女子がテレビというマスメディアに取り上げられ、非難を浴びる現代社会。我々はまた、1%から目をそらし、互いにつぶし合う世界へと沈殿していくのではないでしょうか。
<文・北条かや>
【北条かや】石川県出身。同志社大学社会学部卒業、京都大学大学院文学部研究科修士課程修了。自らのキャバクラ勤務経験をもとにした初著書『
キャバ嬢の社会学』(星海社新書)で注目される。以後、執筆活動からTOKYO MX『モーニングCROSS』などのメディア出演まで、幅広く活躍。著書は『
整形した女は幸せになっているのか』(星海社新書)、『
本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)、『
こじらせ女子の日常』(宝島社)。最新刊は『
インターネットで死ぬということ』(イースト・プレス)。
公式ブログは「
コスプレで女やってますけど」