社会人の息子が自分で何もできない――【石原壮一郎の名言に訊け】~マッサンの巻~
2014.12.14
Q:ふたりの息子を持つワーキングマザーです。夫と協力しながら、どうにか子どもを育ててきました。上の息子が春から社会人になりましたが、あまりにも何もできなくて心配です。朝、ひとりで起きられないことから始まって、定期券も自分で買えません。仕事でわからないことがあると、LINEで私に相談してくる始末。夫は「ほおっておけ」と言いますが、失敗するのがわかっているのに助けないのも、母親として無責任な気がします。どうすれば息子が変わってくれるでしょうか。(東京都・48歳女・公務員)
A:女性からの相談は初めてですね。ご本人としては真剣に悩んでらっしゃるようです。ちょうど窓の外に、近所の飼いネコでこのへんを毎日パトロールしている猫のタマさん(雌、推定8歳)が歩いてらっしゃるので、アドバイスを求めてみましょう。
「ニャ? ふんふん、ニャるほど。話はわかったニャ。まったくもう、人間が答えるほどでもニャいから、ネコの私に言わせようとしてるニャ。ニコニコしているわりには、けっこう人が悪いニャー。いいニャ。たまにおいしいものくれるから、答えてあげるニャ。
相談者と同類の人以外はみんなそう思っただろうけど、変わらなきゃいけニャいのは、息子じゃなくて母親であるあニャたのほうニャ。夫の言うように、ほおっておけばいいニャ。っていうか、ほおっておいて失敗させるのが母親の責任なんじゃニャいのかニャ。
どうやらバカ息子みたいだけど、もしかしたら無意識のうちに母親に気をつかって、世話が焼ける振る舞いをしているのかもしれニャいニャ。手遅れかもしれニャいけど、今つき放さなきゃ、もっと手遅れにニャるニャ。たとえ打ちのめされたとしても、きっと今よりはいいニャ。残酷? かわいそう? 今のほうがよっぽど残酷でかわいそうだニャ!
あたいは、毎朝、NHKの朝ドラの『マッサン』を見るのが楽しみニャんだけど、マッサンがいいこと言ってたんだニャ。一時期、パン屋になるとかほざいてた頃があったニャ。あの頃のダメ男っぷりにはイライラさせられたけど、このセリフはよかったニャ。
【親っちゅうのは酵母みたいなもんじゃの。パンがふくれる為にゃ酵母がいるけど、パンがふくれてしもたらもう酵母はパンの中におらんようになってしまう】
あニャたのやっていることは、ふくれようとしているパンの中にいつまでもしがみついて、パンがふくらまニャいようにしてるみたいなものニャ。息子を一人前のパンにしたかったら、さっさとパンから離れるニャ。酵母臭いパンなんて、食べられたもんじゃないニャ。
息子の心配をしたり世話を焼いたりするのって、気持ちいいものニャ。ネコのあたいにもわかるニャ。でも、ネコは子どもが大きくニャったら、母親の勝手なニーズで甘やかし続けたりしニャいで、ちゃんとつき放すニャ。やれやれ、困ったもんだニャ、人間って。」
「心配だから」「私がいないとダメだから」といったセリフは、たいていは言っている側の勘違いです。しかし、確実に気持ちよさを味わわせてくれる甘い誘惑に負けて、つい余計な心配や手出しをしてしまいがち。積極的に意識しないと「つき放す勇気」を持つのは難しいと認識した上で、必要に応じて発揮しましょう。それが親としての大事な役割です。
【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。
いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス)
【今回の大人メソッド】積極的に意識しないと「つき放す勇気」を持つのは難しい
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