戦死してもロシア軍の戦死者リストにも載れない、シリアで戦うロシアの傭兵の実態

仕事がないため傭兵に志願する市民

 フォンタンカ紙によると、2015年からシリアで戦争に参戦しているワグナーの傭兵は3000人にまで及ぶという。志願兵を募ることに事欠かないのは稼ぎが良いからである。  ロシアではモスクワとサンクトペテルブルグ以外の都市では仕事はないという。そこで仕事が見つかったとしてもひと月200ユーロ(27000円)程度の稼ぎにしかならない。そのため、一か月3000ユーロ(405000円)稼げる傭兵に志願する人は多いという。最高6500ユーロ(876000円)まで稼げるとしている。(参照:「El Periodico」、「En Pie de Paz」)  シリアでロシアの傭兵として戦った経験のある人物の説明によると、「我々はまず最初の波となって先陣を切る。一旦、敵の位置を確認するや空爆と連携しての攻撃に入る。我々の後にシリアの政府特殊部隊が続く」と説明して取材に答えた。(参照:「El Periodico」)  ある調査によると、2015年から250名のロシア傭兵がシリアでの戦闘で死亡しているという。それ以外、ウクライナなどでの参戦を加えると600名余りが亡くなっているそうだ。現時点ではシリアで650名の傭兵が戦っているが、2017年にも28名の傭兵が戦死しているという。しかし、この戦死者の数はロシア国防相は勿論無視している。

戦死してもロシア政府からの栄誉礼もない

 しかし、ロシア傭兵の死亡はロシア軍のシリアでの戦死者には公式には数えてもらえない。報道が政府によって厳しく規制されているロシアでも、戦死者の数が少ない方が政府にとってもプーチン大統領にとっても都合は良い。その意味もあって、ワグナーが政府の陰の組織として存在しているのである。ロシア国防省がこれまで41名の軍人が死亡したと発表した時も、フォンタンカ紙は73名の傭兵が戦死していることは隠されていたと指摘した。(参照:「El Comercio」)  傭兵といってもロシア市民である。彼らの多くが戦地で亡くなって行くことに野党は政府の姿勢を強く批判している。しかし、ロシアでの野党の存在は実に影が薄い。傭兵の戦死者には、家族を養うために傭兵になった元警官や、結婚式を貯めるために傭兵になり、フィアンセに「もうすぐ会える」というメッセージを残していた若者もいた。ロシア政府には彼の死亡は記録に残らない。よって、埋葬に栄誉礼も受けられないのだ。  ただ、ワグナーが戦死者の家族に慰謝料として300万ルーブル(560万円)を支給されるのみだという。(参照:「En Pie de Paz」)  シリア紛争は終幕を迎える様相は一向に見えない。<ロシア軍は4300名が駐留している>と言われている。しかし、ロシア政府はロシアの軍人の戦死を少なくさせる意味もあって、必然的に傭兵をこれから常住させねばならない運命にある。傭兵とその家族の悲劇はまだまだ繰り返されるであろう。 <文/白石和幸> しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
1
2