<JR北海道の試練2>札幌~旭川~名寄~稚内と鉄道移動して肌で感じたJR北海道の「問題」

あさひかわ産米粉シュークリーム

北海道限定のお菓子、あさひかわ産米粉シュークリームを買い込む。グルテンフリー推奨の筆者にはうれしいおやつになった

北海道の鉄道を巡る「悪循環」

 北海道訪問に際し、著者は二冊の小説を持参していた。吉村昭著「赤い人」と池澤夏樹著「静かな大地」である。  「赤い人」は明治初期に本州の囚人を北海道に「島流し」にして、これを無報酬の労働力としてこき使うことにより開拓を進めいく過程で、看守と囚人の間におきた憎悪と闘争を描き出した傑作である。  「静かな大地」は同じく北海道に移住した開拓民が直面する、アイヌとの相克を描いた大作である。ハードカバーで700ページ近くの大作だが、全く飽きさせることがない。  上記の二冊や多くの書籍で描かれている通り多くの人たちの血と汗と涙の結晶が今の札幌を作り上げたのだということはよくわかる。  だが、現在のJR北海道を巡る状況を鑑みると、今も人口密度が低く、したがって産業にも限りがあり、だからこそ有望な若者は外へ出ていく……それゆえに鉄道の絶対的本数が少なくなり、不便だから誰もが車で移動して、さらに鉄道の維持が困難になっていくという完全な悪循環に入っている。  浅野氏が指摘する通り、飛行機で札幌入りする人ならほぼ全員が乗るはずの新千歳―札幌線ですら営業係数が105、つまり赤字なのだから、市内の地下鉄は別としてもそれ以外の道東や道北の路線が黒になることなどどうやってもありえないのだ。  筆者は旭川での書店営業を終えると、石田直裕五段の実家がある名寄行きの電車を待った。  名寄行きの電車は、車両一両だけである。ぱっと見たところ、乗車率は大体三割から四割くらいだろうか。満員になることなど、どう転んでもありそうにない。11:29分旭川発で12:52名寄着、つまり移動時間は1時間20分程度で運賃は1640円となる。  これがバスだと移動時間が2時間少々で運賃は1300円である。これなら、どっちもどっちといえよう。  何気なく窓の外を見ると、カラフルな民家が並んでいるわけだが関東一帯とは明らかに違うことが一つある。屋根の傾斜が大きいということだ。理由は聞かなくてもわかる。傾斜を大きくしておかないと、雪が積もってどうしようもなくなってしまうからだ。  結局、北海道で鉄道を維持しようと考えると、雪との戦いが一つの課題となるのだ。  東京なら雪が積もってもせいぜい5cmか10cmで、年に数回それで電車が遅れる程度だが、北海道は毎年冬になると毎日雪が積もるわけで、深刻度が全く違う。  当然、費用も関東や東海と同じ基準で考えてはいけない。経営が苦しくなるのもわかる。

名寄から稚内までの電車は乗客なんと自分1人

 そんなこんなで名寄に着き、石田五段の母親である寿子氏と対面し、数時間後、彼女に見送られながら次の目的地である稚内行きの電車に駆け込んだ。14:52発の電車だったが、私が駅に着いたのはおそらく14:52:40くらいだった。にも関わらずなんとか乗れたのは多少融通をきかせて乗せてくれたのかもしれない。ただ、急いで乗車したため、料金を支払う余裕はなかった。  ちなみに、午後に名寄から稚内まで電車移動しようとするなら、一日三便しかない。  14:30ごろ出発で17:20ごろ到着の特急が一本、筆者が乗った14:52発で19:49着の鈍行が一本、これを逃したらその次は特急で21時ごろ発で23時50分ごろに到着の特急しかない。乗り遅れたら一大事である。運賃は鈍行3990円、特急6150円である。  さらに、この二都市をバスで移動しようとしても、直行便はない。2回の乗り換えが必要となり、所要時間は8時間~11時間、運賃は6000円~11000円とまちまちである。これに関しては、鉄道が圧勝といえよう。  そして、この電車に乗った私は愕然とした。なんと、乗客が筆者一人だけなのだ。「青春18きっぷ」の時期だったらもう少し違うのだろうが、そうでない時期にわざわざ4000円を払って鈍行で名寄―稚内を移動しようとする奇特な人は筆者だけのようだ。
名寄~稚内の特急

名寄~稚内の特急は、筆者以外は乗客ゼロであった

 肘置きを見ると、昔ながらの引き出し式灰皿が残っている。  もちろん現在は車内禁煙は当然のマナーなのでこの灰皿もセメントか粘土かで固定して使えないようになっている。今時、関東の電車で灰皿がついているなど想像すらできない。つまりは、20年かそれ以上この車両を使い続けていて買い替える気配すらないという証明である。  事実上の貸し切り車両で、外は延々と緑の中に一本だけ線路が続くという風景が変わることがない。もしPCを持ち込めば、原稿執筆には最高の環境である。小説家志望なら一度は乗ってみるべきだ。  今から約30年前、国鉄民営化が断行された。筆者は「小さな政府」の信者なので、政府が事業をすることは基本的に全て反対である。つまり、民営化大賛成である。  しかし、道北の電車に揺られていると、国鉄民営化とは、要はJR北海道の切り捨てだったのだとよくわかる。  あの当時、「オレにJR四国をやらせてくれるなら、黒字にして見せる」と言い放った経営者がいた。だが考えてみると、日本の経営者でJR北海道の立て直しに手を挙げた人は未だに一人もいない。つまり、JR北海道再建はあのJAL再建より難しいということだ。  そんなこんなを考えていると、車掌が検札にやってきた。無賃乗車をするつもりは毛頭ないので、切符を買う時間がなかったことを詫び、どこでどのように運賃を払えばいいのかを聞いた。  すると、その答えは衝撃的なものだった。
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人が来ないので16時過ぎには閉める駅窓口
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