中国で台頭する「スラッシュ青年」は、虎視眈々と一夜暴富を狙う

斜杠青年(スラッシュ青年)がビジネス伸展を支える

朱:中国企業の急成長に伴い、組織は巨大化し、上位ポストも増えていると言えますが、全てのビジネスパーソンが望むタイミングで昇格できるわけではありません。 一方で、転職先からのオファーは現在の給与の2倍、3倍になるケースがざらです。転職してキャリアを作ることにビジネスパーソンが躍起になることは自然なことだと思います。 山口:一か所にとどまることが必ずしもよいことではない、新しいことにチャレンジする意欲に富んでいる、試行錯誤をすることに寛大な環境だということでしょうか。 朱:中国の若手ビジネスパーソンを象徴するキーワードに、斜杠青年(スラッシュ青年)というものがあります。最近、日常的によく使われる用語です。ひとつの仕事だけでなくA/B/Cの仕事をやっている、ひとつ専門スキルだけでなく転職などによりA/B/Cのスキルを持っているという意味です。

山口氏

山口:なるほど、“スラッシュ”の次の仕事やスキルを貪欲に身に付けていくことが常態化しているのですね。 日本では、1人のビジネスパーソンが長年ひとつの事に専念して長く深く貢献していくことに価値を見出しがちですが、スラッシュしながら、新しいことにチャレンジして相乗効果を生む、より高い価値を生み出せる機会を貪欲に獲得しようとすることにも意味があるように感じますね。 それでは、中国のビジネスパーソンが、新しいことにチャレンジしていく意識は、何によって高められているのでしょうか。

刺激し合う対人関係がWin-Winを実現する

朱:まず挙げられるのは貧富の差です。大卒1年目の年収はざっと60万元(1000万円)から6万元(100万円)までピンからキリです。狭い範囲で標準化されている日本と大きく異なります。貧富の差が金銭欲を高めていることは間違いないと思います。 そして、何よりも、他者とのかかわり方が大きく異なると思います。中国のビジネスパーソンの他者とのかかわり方は、刺激し合ってWin-Winを実現することが基本です。 日本のビジネスパーソンは、チームで協力し合おうと言いながら、刺激を与え合わないですよね。私に言わせれば、何も刺激を与えないことは、何もしないことと同じです。Safe-Safeであればよい、Lose-Loseにならなければよいというだけの関係だと思えてなりません。 山口:無難な関係を保っていればよいという意識では、組織の力が高まらないわけですね。その根底には、能動性、迅速性の違いがあるのでしょうか。 朱:日本では、中国人が電車の中やエレベータなど公共の場所で騒ぐことが取りざたされています。しかし、私は、電車の中で「携帯電話はマナーモードにして通話はご遠慮ください」という放送を聞いいたり、エレベータに私語厳禁のプレートが貼られていたりしているのを見て、日本だなと思います。海外ではエレベータートークという言葉があるぐらいですからね。 敢えて強めにコメントすると、電車の中で一言もしゃべらない、エレベータで会話しない民族は日本人ぐらいです。もっとコミュニケーションの取れる機会を大事にすべきです。 うるさくしようとして騒いでいるわけではないのです。同行者に刺激を与えたい、巻き込みたい、一緒に取り組みたいという思いなのです。もちろん、全てがこのケースに当てはまりませんが、もっと寛容な気持ちを周囲は持つべきだと思います。

<対談を終えて>

 副業や転職や起業に挑む「スラッシュ青年」(斜杠青年)が、「一夜暴富」で巨額の富を得る……一攫千金と言えば聞こえが悪いのですが、そこには試行錯誤による進歩のプロセスが間違いなく存在しているように思います。電車やエレベータで騒々しいのは、他者と積極的に関わり刺激し合ってWin-Winを実現する意味があるのです。  中国版シリコンバーレーと言われる中関村の経営者たちに、分解スキル反復演習型能力開発プログラムを実施していますと、日本ビジネスパーソンの職人気質を学びたいという依頼に接します。職人気質だけでなく、他者を巻き込み合うことのできる、それも巨大組織が誕生しようとしているのです。(モチベーションファクター株式会社 山口博) 【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第73回】 <文/山口博> 【山口 博(やまぐち・ひろし)】グローバルトレーニングトレーナー。モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)、『クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい、2017年8月)がある。
(やまぐち・ひろし) モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社新書)、『クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社+α新書)、『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)がある
1
2
チームを動かすファシリテーションのドリル

「1日1分30日」のセルフトレーニングで、会議をうまく誘導し、部下のモチベーションを自然にあげられるようになる!