今までは地元民の生活の場だった「ヘム」と呼ばれるホーチミンの路地裏。なぜかそこに新規出店する店が増え、外国人向けの業種も増えているという。
その背景に何があるのかという筆者の疑問に、「ネットやスマートフォンの発達でビジネス手法が変化したからなのです」とホーチミン在住の若手実業家は言った。
東南アジアにおけるソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の普及率は異様なまでに高い。中国のSNSアプリもあるし、なにより浸透しているのがフェイスブック(以下FB)だ。スマートフォンも日本では見かけない中国メーカーが多数あり、低所得者でも購入できる。そのため、スマホを持つほとんどの人がFBのアカウントをひとつ以上は保有する。
レタントンから数キロ離れた住宅街にも数軒、日本人向けの飲食店があった
イメージで東南アジアはIT関係が発展していないように思われるが、独自開発のシステムは確かに少ないものの、法整備がきっちりしていない分、自由度が高い。無料Wi-Fiの電波もそこら中にあるので、一般市民の受け入れ方も柔軟だ。今やタクシーも手を挙げて停めるものではなく、ベトナムではアプリで呼びつけるのが一般的になりつつある。社会主義国家が厳しく取り締まる売春も、今やSNSを介して行うのがベトナム流だ。
飲食店なども表通りに店を構える必要がなくなった。検索や予約はネット経由が当たり前になり、SNSにマップを載せておけば辺鄙な場所でも客が入る。外国語が苦手でもサイトやファンページを作っておけば、あとは自動翻訳で多国籍の客を捕まえることができる。FBも投稿を活用するどころか、多くの飲食店がホームページをFBのページで代用する。あとは友人知人に「いいね」を押してもらい、広まっていくだけだ。
一方でデメリットもあって、評判が少しでも悪くなれば、あとは話に尾ひれがついて膨らんでいってしまう。IT先進国なら根も葉もない噂に法的手段で立ち向かうこともできるだろうが、ベトナムで果たしてどこまでそれができるのか。
とはいっても、そもそも、東南アジアの社会主義国にまで来て店を開こうという人たちだ。SNSでなにを言われようとへこたれない強者も少なくない。ちょっとの不評が大きくなっても、裏路地の魅力の方がまだ大きい。ホーチミンのビジネスで大切なのは場所ではなく、検索順位なのだ。
ハノイでは裏路地をンゴー(NGO)と呼ぶ
<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:
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