関西の風物詩が、ここ数年で「ブラック」「ノルマ」のイメージに
恵方巻きといえば、関西における節分の風物詩。それがここ数年、全国チェーンのコンビニやスーパーなどの影響で一気に広まった。筆者が京都の大学生だった10年前は、まだ恵方巻きは関西限定のイメージが強く、東京ではほとんど見かけなかったように思う。
しかし、日本人は信仰心が深いのか、季節ごとにご利益のある食べ物をきちんとありがたがる性質があるようで、今では全国どこのコンビニでも恵方巻きを拝めるようになった。その過程にあるコンビニ各社の「商魂たくましさ」の犠牲になったのが、若きアルバイト店員たちだ。
2009年頃から「ブラック企業」なる言葉が世間に浸透しはじめたのは周知の事実だが、最近では学生バイトに無理やりノルマを課したり、学業に支障をきたすような長時間シフトを押し付けたりする「ブラックバイト」が問題になっている。
例としてよく出されるのが「コンビニの季節商品ノルマ」だ。クリスマスケーキやおせち、そして恵方巻きが、まさにそれ。ツイッターでは、「恵方巻きのノルマで○本買わされた」とか、「恵方巻きとかここ5年で浸透した浅い行事にノルマを付けるコンビニ業界」等のつぶやきが散見される。
郵便局員が年賀はがきや季節ギフトを買わされる「自爆営業」のごとく、1人ではとうてい食べきれない量の海苔と白米でできた重たい棒状の風物詩を押し付けられる若者は、本当に報われない。
あまりに犠牲になるアルバイトが多いため、コンビニ業界も近年はそこまでゴリ押しはしていないようだが、恵方巻きにまとわりついた「ノルマ」「ブラック」というイメージはなかなか消えない。
このマイナスイメージこそ、若者の「節分離れ」を招いた要因のひとつではないか。
コンビニ業界が勝手に、商業化された伝統文化を押し付け、追いつかない需要をブラックノルマで埋め合わせようとした結果、若者が節分から逃げ出したのではないかと思う。
言葉ができれば、概念ができる。今までおかしいと思っていたモヤモヤに、多くの人が気づくようになっただけのこと。若者よ、節分から離れたって何の問題もない。いらない寿司の棒を消費する主体になんぞ、ならなくてもよろしいのである。
<文・北条かや>
【北条かや】石川県出身。同志社大学社会学部卒業、京都大学大学院文学部研究科修士課程修了。自らのキャバクラ勤務経験をもとにした初著書『
キャバ嬢の社会学』(星海社新書)で注目される。以後、執筆活動からTOKYO MX『モーニングCROSS』などのメディア出演まで、幅広く活躍。著書は『
整形した女は幸せになっているのか』(星海社新書)、『
本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)、『
こじらせ女子の日常』(宝島社)。最新刊は『
インターネットで死ぬということ』(イースト・プレス)。
公式ブログは「
コスプレで女やってますけど」