では、彼はどのような考え方に基づいて投資活動をしていたのでしょうか。 　彼の投資法は、彼が「二割利食い、十割益半分手放し」と呼んでいる方法で、「買値の2割の益が出たらすぐに転売して益金を銀行の定期預金に預け、手持ちの株が2倍以上に騰貴した場合は、半分を売り放ち、元金だけを預金に戻す」というものになります。 　こうした方法に基づいて、鉄道をはじめ、ガス、電気、製紙、ビール、紡績、セメント、鉱業、銀行など30種類以上の業種のなかで、優良株を選んで投資していったところ、皆成功をおさめたそうです。 　また、投資戦の心構えとして、「好景気時代には勤倹貯蓄を、不景気時代には思い切った投資を、時機を逸せず巧みに繰り返す」ことを勧めています。つまり、不景気のときは安く買い集められるため、積極的に投資しておき、株価が上がった時点で高く売る、という考え方です。 　実際に彼自身が、人生のなかで「一番うまくいった」と述べている株式投資のエピソードを見てみましょう。 　関東大震災直後、すべての株が暴落して、電気会社などは10円近くまで下がったそうで、それを見た彼は、今買っておけば必ずもとに戻ると確信し、12円から買い進めた結果、読み通り株価が戻って大儲けしたということです。 　このように莫大な財産を築いた静六は、一介の大学教授がそんな大金を持っているのはおかしい、何か悪いことをしているのではないかという、あらぬ疑いをかけられ、他の同僚から辞職勧告まで受けたという逸話まで伝えられています（幸い、すぐに誤解は解け、その同僚からは平謝りされたそうです）。 　ここまでを改めて振り返ると、彼の蓄財法と投資法はすごく目新しいものという訳ではありません。財産を築くには、「お金を貯めないといけない」、そして、「そのお金を殖やさないといけない」という2つの努力が必要で、このこと自体は今更指摘するまでもない、ごく当然の真理と言って良いでしょう。 　ただし、静六のすごいところは、その貯め方・殖やし方に「4分の1貯金法」「二割利食い、十割益半分手放し」といった自分独自のルールを設けて、景気がいいときも悪いときも、そのやり方を愚直に実行し続けたというところだと言えるでしょう。そして、そのブレなさや意志の強さが凡人と異なるところであり、彼を日本有数の蓄財家にならしめた秘密ではないかと思います。 　次回も世界の成功者たちや大富豪をピックアップし、彼らの成功哲学をご紹介したいと思いますので、どうぞ宜しくお願い致します。 ＜文／高田晋一＞ 【高田晋一】 （株）成功データ研究所 代表取締役。作家。データアナリスト。早稲田大学第一文学部哲学科卒業、英国国立ウェールズ大学経営大学院Postgraduate Diploma取得。10年以上にわたり、電通グループ各社で市場調査やデータ分析を担当。成功に関する文献・データを集め分析することをライフワークとし、これまでに1000冊以上の自己啓発本・成功本などを読破。その後独立し、社会的成功に関する研究を行なう専門機関、「（株）成功データ研究所」を設立。これまでの研究結果を書籍やセミナー、雑誌やWEBの記事などを通じて発表している。著書に、『「人生成功」の統計学 自己啓発の名著50冊に共通する8つの成功法則』（ぱる出版）、『自己啓発の名著から学ぶ 世界一カンタンな人生の変え方』(サンクチュアリ出版)、『大富豪の伝記で見つけた 1億稼ぐ50の教え』（サンクチュアリ出版）、『成功法則大全』（WAVE出版）など。 HP:「成功データ研究所」　メルマガ:「今日の成功データ」 Facebook：高田晋一　Twitter：@shinichi_exp