不適切な指導により、生徒の死に繋がったケースは30年間で73件
教育評論家の武田さち子氏の調査によると、平成に入ってから、不適切な指導が児童生徒の自殺に結びついたのは73件。このうち、暴力を伴うケースは18件で、19%のみ。暴力を伴わないほうが81%と多い。前出の2つケースでは暴力をふるってない。
指導が自殺に結びついたケースとしては、2012年12月、大阪市立桜宮高校のバスケットボール部のキャプテンが自殺したことがイメージしやすい。自殺した生徒は恒常的に体罰を受け、自殺前夜にも30~40回殴られていた。体罰を伴う苦痛によって自殺するのは社会問題として訴えやすい。
一方で、多くの人にとっては、暴力が伴わない指導が自殺に結びつくとは想像しにくい。しかし、子どもを精神的に追い詰める。代表例が、してもいないことを責める「冤罪型」だ。
「真っ当な生徒指導が自殺に結びつくのではないのです」
2013年3月、1年生の男子生徒(当時16)が鉄道自殺をした。部活動内でのトラブルが起きた2月に、メールでの言い争いがあったが、亡くなった生徒だけが指導の対象になった。
また、部員が事実と異なることを先輩や顧問に伝えたが、顧問はその話を鵜呑みにし、事実を確認することなく、一方的に指導。顧問は「もう誰とも連絡を取るな、喋るな、行事に参加しなくてもいい」と、理不尽な条件を出した。「見せしめの罰則」だ。
生徒の自殺の後、学校側は在校生を対象にしたアンケートを取ったが、遺族には知らせず、破棄。しかし部活内のアンケートに関しては、粘り強い開示請求の結果、11月、遺族側にアンケートが開示された。
「裁判所が文書提出命令を出したことは画期的です。アンケートの提出を巡って、これまでも行政側と遺族側が対立することがありました。その場合、裁判長が間に入って、公開範囲をさぐり、文書提出命令まではには至りませんでした。なぜ、北海道はそこまでガードしたのか」
また、いじめ自殺の場合は法律もあり、調査委員会が設置される。一方、指導死の場合は、文科省の「子どもの自殺が起きたときの背景調査の指針」があるものの、特段の定めはない。
ただ、平成以降、指導死では22件、16%しか設置されていないが、直近3年では14件中9件、64%で設置されている。
「親の会とつながったり、全国学校事故事件の弁護団と早い段階で連絡ができていいるためです」
指導死。この言葉に拒否的な教育現場もまだある。しかし、遺族による講演会も多くなってきた。また、日体大など大学の教員養成過程の授業にも、遺族たちが話す機会ができている。
<取材・文/渋井哲也>
【渋井哲也】
ジャーナリスト。「生きづらさ」のほか、インターネット・コミュニケーション、少年事件、ネット犯罪、自傷、自殺、援助交際などについて取材。講演活動も行う。近著に『
命を救えなかった:釜石・鵜住居防災センターの悲劇』(電子本ピコ第三書館販)。