北朝鮮が衛星を打ち上げる目的について、多くの場合「衛星打ち上げを通じてミサイル技術の開発、試験をしたいから」と解説されることが多い。政府発表や報道で「人工衛星と主張する事実上の弾道ミサイル」などという妙な日本語が頻出するが、その言わんとしているのはこういうことである。
極軌道にしても静止軌道にしても、そこに衛星を打ち上げられるということは、それだけ性能が高く、そして正確に飛ぶロケット、すなわちミサイルが開発できたということを意味する。つまり衛星打ち上げを通して、ミサイルの開発、発射試験を兼ねて行うことは可能であり、それが目的のひとつなのは間違いないだろう(安保理決議で衛星打ち上げも禁止されているのはそのためである)。
とくに静止衛星の打ち上げには、それなりに大きな規模、そして高い性能をもつロケットが必要になる。本当に成功すれば、あるいは試みるだけでも、他国でいうところの中型以上の規模のロケットを開発できたということであり、北朝鮮にとっては世界にそれを喧伝できることになる。
これまでに、それほどの規模のロケットが開発されている兆候は確認されていないが、たとえば大陸間弾道ミサイル「火星15型」などのエンジンを組み合わせれば、開発することは不可能ではない。
ただ、「衛星が欲しい、利用したいから」という、“真っ当な”理由があるとも考えられる。
地球観測衛星は地表が撮影できるが、その画がもつインパクトは、北朝鮮にとっても他国にとっても大きい。米国本土の画像に過激な文言を添えて発表し、トランプ大統領をはじめ国際社会を煽るということは十分に考えられる。また、北朝鮮がその画をうまく活用できれば、農作物や土地の利活用の状況を調べられるため、自国の発展のために役立たせることもできなくはない。
ちなみに、地球観測衛星は軍事利用もできるため、「北朝鮮がスパイ衛星を保有する」ということにもなる。ただ、1機の衛星だけでは地球のある地点を通過できる機会が限られ、またカメラの性能もそれほど高くないと考えられるため、たとえばリアルタイムで韓国軍や米軍基地の動向を監視するというようなことはできない。
一方の通信衛星は、地上の回線に頼らず他国と通信できるというメリットがあり、たとえば中国などを経由せず、他の友好国、支援国と情報のやり取りが可能になる。また北朝鮮国内の通信にとってはあまり役立つものではないかもしれないが、通信網が発達していない地方とのやりとりには使えるかもしれない。
衛星を打ち上げる目的として、もうひとつ考えられるのは、「部分軌道爆撃システム」と呼ばれる兵器の開発・試験である。
通常の大陸間弾道ミサイルは、発射されたのち、最短ルートを通って目的地に到達する。たとえば北朝鮮から米国本土を狙う場合、日本海やアラスカなどの上空を通過する。そのため、発射の探知や飛翔コースの追跡はもちろん、迎撃ミサイルによって撃ち落とされる可能性もあり、それらをかいくぐることは難しい。
一方、部分軌道爆撃システムは、あらかじめ核弾頭などの兵器を地球を回る軌道に乗せておき、いざ攻撃する際になったら、軌道から目標に向けて落下させるという仕組みをしている。これにより、発射時には普通に人工衛星を打ち上げるように振る舞うことができ、攻撃時にも探知や迎撃がされにくいなどといったメリットがある。
こうしたシステムは過去、ソ連が実際に配備、運用していたが、現在ではすべて退役している。ただ、もし北朝鮮がこの技術に興味を示し、開発を進めることになれば、大陸間弾道ミサイルと並んで、あるいはそれ以上に脅威になることは間違いない。
そもそも北朝鮮にこのような兵器を開発する気があるかどうかも不明だが、技術的にはいつかたどり着くことは必然であろう。もちろん、実際に開発、配備し、そして運用するまでにはさまざまな技術的なハードルがあり、実現に必要な技術のうちいくつかは、まだ北朝鮮がもっていないと考えられている。そのため、今日明日にすぐにできるというものではない。
しかし、北朝鮮による衛星の打ち上げが、その開発に向けた第一歩になることは間違いなく、今後の動向に注目される。
<文/鳥嶋真也>
とりしま・しんや●宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『
イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。
Webサイト:
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Twitter: @Kosmograd_Info(
https://twitter.com/Kosmograd_Info)
【参考】
・US aims to be ‘more discreet’ about military exercises related to North Korea – CNNPolitics(
http://edition.cnn.com/2017/12/27/politics/military-exercises-north-korea/index.html)
・CNN.co.jp : 北朝鮮、ミサイル発射の準備か 初期の兆候を確認(
https://www.cnn.co.jp/world/35112632.html)
・Controversial Rocket Launch: North Korea successfully places Satellite into Orbit – Spaceflight101(
http://spaceflight101.com/north-korea-kms-4-launch-success/)
・North Korean Satellite stabilizes in Orbit, Reports of Satellite Operation remain unconfirmed – Spaceflight101(
http://spaceflight101.com/north-korean-satellite-stabilizes-in-orbit-reports-of-satellite-operation-remain-unconfirmed/)
・(
http://www.seoul.co.kr/news/newsView.php?id=20160211800121)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。
著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。
Webサイト:
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