しかし、今回JAXAが開発し、打ち上げた超低高度衛星技術試験機「つばめ」は、国際宇宙ステーションや他の衛星などよりももっと低い、高度180~300kmあたりの軌道、いわば地球と宇宙の境界にあたる場所を飛ぶことを目指している。
このくらいの高度だと、大気は薄いとはいえ、他の衛星が飛ぶ高度に比べると約1000倍も濃く、その空気抵抗のせいで、放っておくとすぐに地球に落下してしまう。
そこで「つばめ」は、大気抵抗を打ち消すようにエンジンを噴射しながら飛ぶ仕組みをもっている。
そのかなめとなるのが、「イオン・エンジン」というロケットエンジンである。イオン・エンジンは燃料をイオン化し、それを電場で加速して噴射するという仕組みのエンジンで、燃費が抜群にいいという特徴をもつ。その反面、推進力は弱いものの、大気との抵抗はそれほど大きくはないため、弱い力でも十分打ち消すことができる。
これまで高度180~300kmほどの低い高度を飛んだ衛星は、ソ連の軍事衛星や欧州の実験機くらいしかない。しかし、どれも大きく重く、とくにソ連の衛星は短期間で運用を終えており、また欧州のは数百億円もの開発費をかけた高価な衛星だった。
一方「つばめ」はわずか約400kgと小型で、運用期間は2年以上を見込んでいる。そして開発費も34億円と安い。
「つばめ」の実機。隣に並ぶ人と比べると、その小ささがよくわかる Image Credit: JAXA
なぜ「つばめ」は、わざわざ低い高度の軌道を、空気抵抗で落下する危険を冒しながらも飛ぶのだろうか。
たとえば地球観測衛星の場合、高度が低いということは地表、すなわち被写体に近いということであり、より高い高度を飛ぶ衛星と比べ、半分以下のサイズのカメラで同じくらい鮮明な写真を得ることができる。そしてカメラが小さいということは、開発費や消費電力が小さくできるので、全体としてコストダウンにつながる。
ちなみに「つばめ」には、約1mの物体を識別できる、口径20cm、質量20kgの小さなカメラを積んでいる。もし高度600~800kmを飛ぶ従来の地球観測衛星で同じくらいの性能を出そうとすれば、もっと大きくて重いカメラが必要になる。
また、宇宙から地表を撮影する際には、カメラだけでなく、レーダーを使って撮影することもある。レーダーを動かすには大電力が必要だが、高度が低くなればその分、消費電力を大きく下げることができる。そうなれば、太陽電池やバッテリーを小さくしたり、衛星を小型したりすることができ、やはりコストダウンにつながる。
さらに、高度180~300kmあたりの環境がどうなっているのかは完全にはわかっていない。とくに、このあたりの高度にある「原子状酸素」という物質は、人工衛星に取り付けられている断熱用の部品を壊してしまうことが知られている。
そこで「つばめ」では、原子状酸素を計測できるセンサーも積み、より将来のこの高度の利用に向けたデータ収集や分析も行う。
「つばめ」の想像図。宇宙戦艦ヤマトのようにエンジンを噴射しながら飛ぶ Image Credit: JAXA