草の根で実施している団体もある。末木氏が協力しているNPO法人OVA(オーヴァ)もそのひとつだ。Google検索で自殺関連語を検索した人に対して、Googleの広告枠を使って相談に乗ってくれる専門団体の窓口を表示する「夜回り2.0」という取り組みを’13年から実施。’17年までの4年間で相談者数は600人を超えており、約3割の人に「ポジティブな心理的な効果」が見られるという。
「夜回り2.0」の仕組み。画像出典:OVA公式HP
政府も、今回の事件をうけた対策の一環として、検索エンジン「Bing」を提供しているマイクロソフトに対して、「死にたい」などの書き込みに対して悩み相談所のリンクを優先的に表示してほしいと要請したと報じられている。マイクロソフトも快諾したそうだ。
ネットのアクションからリアルの相談に繋げる。その風潮が高まれば、自殺予防に関しては少なくともプラスの方向に進みそうだ。
ただし、現状ではバックアップが不十分だとも感じているそうだ。それが冒頭の「問題は誰が支援するのか明確ではない点」に繋がる。
「他殺や事故死を防ぐための機構である警察は税金によって運営されていますし、病死を防ぐための機構である病院にも税金が使われています。しかし、自殺予防はどうでしょうか? SNS事業者ができることには限界があります。今のところ、公的な資金に頼って行う以外の道はありません。これは、SNSやネットの問題でもなく、税金の使い道の優先度に関する国民の合意の問題だと思います」
座間の事件の本質は自殺願望を食い物にした猟奇性にある。その表層としてあるネットやツイッターといったディテールだけに注目していても、根本解決には至らないということかもしれない。
【末木新氏】
和光大学現代人間学部心理教育学科准教授。自殺や自殺予防に関する研究を専門とし、著書に『
インターネットは自殺を防げるか』(東京大学出版会)などがある。
<取材・文/古田雄介>