夏野 剛「当たり前のことができないダメ会社はすぐ辞めろ!」vol.3

日本経済が回復の兆しを見せ、企業業績も軒並み好調と報じられる一方、海外では『MADE IN JAPAN』は失落。お家芸であったはずの家電分野も海外メーカーにシェアを奪われている。その理由を、NTTドコモ在籍時にi・modeを立ち上げ、年間1兆7000億円の収入に育て上げた男、夏野剛氏は、“当たり前の経営思考”の欠如と説く。そして、日本企業に多く見られるこの“病”の処方箋は「意外とシンプルだ」とも。成長する企業と衰退する企業の違いは? これからの時代に求められるビジネスマンとは?「ニコニコ動画」を黒字化させた男が、その答えを語り尽くす! ⇒vol.2はこちら

大企業だから「安心」は間違い。縮小、消滅も……

――供給側のユーザー目線が欠如した例をお聞きしてきましたが、海外メーカーはどうなんでしょうか?
テスラモーターズ

テスラモーターズ

夏野:比較的ユーザー目線を持った企業は多い気がします。自動車メーカーでは、オプションが少なく迷わずに済む「テスラ」。逆にオプションが多いものの、どんな組み合わせも可能な「ポルシェ」。「ダイソン」の掃除機もバリエーションはあるものの、わかりやすいラインナップですよね。日本の家電も日立の冷蔵庫の「真空チルド(※1)」のように素晴らしい技術力があるのだから、ラインナップを適正に保つことでチャンスはあるんです。反対にバリエーションが多いと納期も遅れます。冷蔵庫というのは必要に迫られて買うことが多いですが、ラインナップが多すぎて小売店は売り場に在庫を抱えられず、納期が2週間かかったりします。欧州の「エレクトロラックス(※2)」や「バング&オルフセン(※3)」は、ラインナップをあまり増やさず、ユーザーニーズに合った製品を作っていますね。しかも毎年のように新製品を発売しなくても十分潤っている。故に、日本のメーカーは根本的に考え方を改めないといけないと感じてしまうんです。 ――もし海外企業が本気で日本市場に参入した場合、日本企業への影響は? 夏野:日本の市場は横並びの価格競争が激しいので、海外企業からすれば非常に利益を出しづらい市場なので、価格勝負のメーカーである「ハイアール(※4)」やサムスン、「LG(※5)」などはそもそも本気で参入してはこないでしょうね。日本は1億人のマーケットなのに、テレビメーカーが何社もあるような国ですから。アメリカではゼロですよ! LGが作っているテレビとソニーが作っているテレビの違いを答えられる人はほとんどいませんが、そんな重箱の隅のような分野で凌ぎを削っていると利幅は小さくなってしまいます。しかも30年までに日本の人口は1000万人以上減少(※6)するので、市場は間違いなく縮小しますよね。自動車メーカーは国外での売上が大きいですが、基本、日本企業は内需への依存が高いです。パナソニックも50%が内需です。そのなかで、お客さんに付加価値を与えられない企業が伸びないのは当たり前ですよね? キープどころか縮小、消滅する可能性もあります。そういうところに勤めてはいけないし、株も買っちゃいけない。「大企業だから安心」は間違いだし、迷言といえるでしょうね。 ――それでも、大企業信仰はいまだ社会に存在しているかと。 夏野:むしろ大企業信仰の人が多いことは、ラッキーと思ったほうがいい。本当に価値を生み出している企業は手付かず(※7)だったりしますからね。みんなと同じことをやらないといけないと考えるのは、業界に囚われている企業と同じ。本来、日本メーカーはユーザーが便利だと感じるアイデア商品を作るのが得意分野だったのに、スマホやテレビなど主力製品のバリエーション作りに注力しているうちに、韓国の「レイコップ(※8)」にお株を奪われてしまった。ああいった商品(※9)こそ、消費者を向いた付加価値商品なんです。また、今は昔と違って技術力がなくても巨大企業になれる時代です。今、携帯電話で最大のメーカーはAppleですが、工場すら持っていません(※10)。「もの作り」で成長した20世紀のレガシーな考え方に固執し、時代についていけてないのが日本のメーカーなんです。 (※1)真空チルド 日立製の冷蔵庫に搭載されている機能。ルーム内を真空状態にすることで、食品の鮮度低下を抑え栄養素を守ることが特長。密閉空間ゆえ、酸化や乾燥を防止でき、生肉や刺し身をラップなしで保存できる (※2)エレクトロラックス スウェーデンのストックホルムに本社を置く家電メーカー。世界150か国で販売、2013年度には約1兆7000億円を売り上げる巨大メーカー。代表的な製品に掃除機の『エルゴラピード』などがある (※3)バング&オルフセン オーディオ製品やテレビを製造するデンマークの高級メーカー。最大の特長は優れたデザイン性で、ニューヨーク近代美術館のコレクションに選ばれた製品も多数存在。性能面の評判もかなり高い (※4)価格勝負のメーカーである、「ハイアール」 中国最大手の白物家電メーカー。大規模工場や安い人件費によってコストを削減し低価格化を実現。’10年には「SANYO」(三洋電機)の白物家電部門を買収、冷蔵庫と洗濯機の生産シェアが世界一に (※5)LG(エレクトロニクス) 韓国の総合家電メーカー。世界の薄型テレビ市場ではサムスンに次ぐ世界2位の座につき、17%のシェアを誇っている。また、エアコンの世界シェア1位など、白物家電の業績も著しい (※6)’30年までに日本の人口は1000万人以上減少 総務省の発表によれば、’30年の日本の総人口は1億1662万人。ちなみに、2048年の総人口は1億人を割り9913万人、2060年には8674万人になるという見込みも (※7)本当に価値を生み出している企業は手付かず 日本には建設機械で世界シェア2位のコマツやコンデンサーで世界トップの村田製作所など、実力派の企業が多数存在。しかし、大学生の就職希望企業人気ランキングを見ると、全日本空輸や電通、JTBなどの大企業が毎年ランクインする現実が…… (※8)レイコップ 韓国人医師リ・ソンジン氏によって開発されたふとんクリーナー。世界24か国で300万台以上の売り上げ。テレビCMのコピーは「干すより、キレイ」。 (※9)ああいった商品 いわゆる、アイディア商品のこと。ウォークマンやカメラ付き携帯電話など、アイディアやちょっとした工夫によるイノベーションは、かつての日本企業が持つ強みであった (※10)Appleですが、工場すら持っていません 現在、iPhoneやiPadの生産は台湾の電子機器メーカー・フォックスコンが請け負っている。また、さきごろ発売されたiPhone6に使われる約1000点の部品のうち半数は日本製という報道も。夏野氏いわく、「Appleと日本メーカーの違いはパッケージング力」 ●夏野 剛 著『「当たり前」の戦略思考』(扶桑社刊 1300円+税) 「アマゾンvs楽天」という構図は間違い!? AppleやLINE、ドコモなど有名企業のビジネスを徹底分析。「勝つためのビジネス思考法」をインプットできるビジネスマンのバイブル的一冊 ― 夏野 剛「当たり前のこと」ができないダメ会社はすぐ辞めろ!【3】 ―
「当たり前」の戦略思考

もはや多くの大企業は「当たり前」の戦略すら立てられていない――