ロストコーナー / PIXTA(ピクスタ)
昨年9月に安倍政権が「働き方改革実現会議」を設置して以降、たびたび耳にするようになった「働き方改革」という言葉。「一億総活躍社会」を実現するという目標が掲げられているが、その実態はなかなか見えてこない。
「働き方改革」をめぐっては、昨年6月に「ニッポン一億総活躍プラン」が閣議決定され、老若男女があらゆる場で活躍できる全員参加型の社会を目指すことが打ち出された。続いて、8月には働き方改革担当大臣のポストも誕生するなど、変革に向けて着実に歩みを進めているようにも思えるが……。人材コンサルタントで、『
「働き方改革」の不都合な真実』(イースト・プレス)の著者でもある常見陽平氏は、この新たな指針に対して懐疑的だ。注目を集める「働き方改革」の問題点と、最前線に立つビジネスマンへのアドバイスを聞いた。
常見陽平氏
――「働き方改革」という言葉から、どのような印象を受けましたか?
常見:“ポエム的”で、なかなか巧妙だなと思いましたね。誰も反対しないような普遍性を装った美しい言葉で手なずけようとしているけど、真の意図がどこにあるのかが巧妙にぼかされています。個々人が、草の根からポジティブに働き方を変えるならいいんです。でも、よくよく中身を見ると「働かせ方改革」じゃないかと。「これで少子化が止まる」とか「ワークライフバランス実現だ」という反応もありましたが、いつのまにか着地点が過労死ラインを超えるレベルでの労働時間規制の話になっている。その点でも安倍政権の巧妙さを感じました。
――経済成長を目指すとしながら、その一方では過剰労働が問題になっています。これら2つは同時に達成できるものなのでしょうか?
常見:やっぱり、そこは気合いと根性じゃダメなんですよ。科学的な話をしているのに、もっと頑張れば効率がよくなるだろうと、いつのまにか精神論になっている。そもそも生産性ということを問い直すことが大事で、人間の努力だけで上がる部分はたかが知れています。個人丸投げ、会社丸投げではなく、国がどれだけ効率化のために資金を投入するのか、みんなが疲弊しないですむような産業を作る気があるのかが問われていると思います。
――GDP600兆円という目標が掲げられていますが、ネガティブな要素が一切考慮されていないように感じます。
常見:ネガティブな要素が考慮されていないというのはその通りです。GDP600兆円と言ったって、市場は常に動いているし、為替のレートから何から、達成するにはさまざまなことが関係あるわけじゃないですか? ベストプラクティスが一般化されて、「こういう風にすればできるでしょ」と言われても、何のイメージも湧きませんよね。そこで危険なのがモチベーション論なんですよ。たしかにやる気のある社員がいれば業績は上がるというのは、みんなが認めるところだと思います。でも、そこが国や会社に過度にコントロールされてちゃいけないよな、と。
――結果的に労働時間が延びることにも繋がりかねない。
常見:「ポジティブな仕事だったら、徹夜しても楽しい」という人もいます。「やりたいことを極めるには時間をかけるのが当たり前」とかね。ただ、それもちょっと危険な発想なんです。催眠術じゃないけど、「楽しいと思い込まされている」ケースだってあるわけですよ。楽しいから、やりたいことだから残業するというのは危険な考えだと思います。客観的に見ると会社に所属して会社のために長時間働いていることは変わらないんですよ。