穴だらけの「働き方改革」 最前線に立つビジネスマンはどうすればいいのか?

――終身雇用や年功序列が悪いとされ、将来への「担保」がないことも、「今とにかく働かなければ」という流れに繋がっているような気がします。 常見:その手の議論を疑ってほしいんですよ。誰が終身雇用や年功序列が悪いと言っているのか? 雇用の流動性が低くなる、フリーライダーが出てくるという悪い面もありますが、安心してずっと働けるといういい面もある。それは残業問題も同じです。ワークライフバランスを阻害することや、過剰労働で死ぬ可能性があるとか、残業前提だったら労働に参加する人が減ってしまうとか、ダメな理由はたくさんあります。ただ、それでも残業がなくならないのは、逆説的に言うと、これはこれで合理的だからなんですよ。柔軟に仕事に対応できるし、人を増やさなくてもこなせるとかね。なんせ仕事の絶対量が多い。いいか悪いかで議論するのではなく、なんでそうなっているのかという前提を考えるべきだと思います。 ――大きな目標を掲げているわりには、現状把握ができていないということですね。 常見:結局、先をボカして不安を煽って、お安く使える柔軟な労働市場にしたいんだと思います。よく言えば労働賃金の最適化ですが、悪く言うと労働者の「定額使い放題」モデルに移行するということです。

働き方を変える前に、自分の身を守るべき

――では、今後の「働き方」を考えるうえで、現場で働くビジネスマンはどう対応すればいいのでしょうか? 常見:働き方を変える前に、自分の身を守るべきです。ポイントは3つあって、まずは健康に詳しくなってほしい。「俺は24時間働けるぞ」と体が堪えられても、心がもたなかったり、その逆もありえます。次にワークルールを学ぶこと。パワハラやサビ残対策にもなりますし、労働リテラシーを身につけておきたいですね。3つめはいざとなったときの辞め方・逃げ方。 ――働き方改革は聞こえのいい部分ばかりが取り上げられますが、そこに惑わされてはいけないということですね。 常見:働き方改革の事例の裏側を見てほしいです。よくメディアも「●●社の驚きの働き方!」といった特集をしますが、なんでそんなことをするのか? こんな弊害があるんじゃないか? と考えることが大事。成功企業とされるところの多くは、よっぽどお金を投資しているか、離職率が高いとか人が採れないという問題で過去に困った経験がある。あるいは自社製品やサービスの利益に繋がる宣伝目的だったりすることもあります。 ――キラキラした部分だけ見てはいけないということですね。 常見:一度成功した企業はそのキラキラを演じ続けなきゃいけないんですよ。キラキラしたベスト・プラクティス企業には気をつけてほしいです。過去にさまざまな事例を見てきましたが、仕事を効率化した企業は何かを失っています。「労働時間が減って、効率化できたぞ!」というときほど、「何かを失っているんじゃないか?」と危機感を持つべきです。別に過労を礼賛しているわけではありません。ただ、ベスト・プラクティス装って、成功の真因がかくされていたり、実は成功していないという事例に騙されてはいけないのです。 ――働き方改革を巡っては、結果だけでなく過程も等しく大事だということですね。 常見:前提として労働時間を短くしようとすることは大切です。そのなかで、いかに余裕を持つか。ちゃんとリラックスした状態で息抜きができているかを見直してほしいです。効率が悪くても、そうした環境で未来に対するアイデアを出し合えることが大事です。働き方改革が、労働時間削減改革にすり替わってしまい、何かとギスギスするなかで、いかにゆとりを創るのかという発想が大切です。 【プロフィール】 常見陽平(つねみようへい) 北海道札幌市出身。千葉商科大学国際教養学部専任講師/働き方評論家/いしかわUIターン応援団長。一橋大学商学部卒業、同大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。リクルート、バンダイ、ベンチャー企業、フリーランス活動を経て2015年より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。大学生の就職活動、労使関係、労働問題を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。『「働き方改革」の不都合な真実』(おおたとしまさ氏との共著 イースト・プレス)『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社新書)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など著書多数。 公式サイト http://www.yo-hey.com <取材・文/林泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン
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