火星15型の最大の特徴であり、そして周辺国にとっての脅威は、大きく重い弾頭を、より遠くへ飛ばせるミサイルが生まれた、ということである。
北朝鮮は今年9月3日に、通算6度目となる核実験を実施。北朝鮮はこれを「ICBMに搭載できる小型の水爆の実験だった」と主張し、その前後に核弾頭と称する小型の爆弾のような物体の写真も公開している。
実際にこの核実験で使われたのが、この写真の物体だったのかはわかっていない。多くの専門家は、北朝鮮はまだ核の小型化には成功していない、つまり核実験に使われたのはもっと低レベルの、図体の大きな爆弾であり、核爆発を起こすことには成功はしたかもしれないが、まだミサイルに搭載できるほどの小型化は達成していない、とみなしている。
朝鮮中央テレビが放送した火星15型の発射の瞬間 Image Credit: KCTV
しかし、たとえ他国レベルの小型化に成功していなくとも、大型の火星15型を使えば、実用的な兵器として運用することができるかもしれない。たとえばElleman氏は、「北朝鮮が造れる核弾頭の質量は700kgほどと推定されるが(ちなみに他国はその半分ほどで造れる)、しかし火星15型は1000kg(1トン)の弾頭を米本土に飛ばせるだろう」と分析、米本土に核が届く可能性を指摘している。北朝鮮自身も報道で「超大型重量級核弾頭が搭載可能」と述べており、重い弾頭を飛ばすことを念頭に置いて開発したことを示唆している。
あるいはもし、小型化に成功していれば(あるいはいずれ成功すれば)、複数の核を積んだ「多弾頭ミサイル」として運用することもできるかもしれない。多弾頭ミサイルは、一度の発射で複数の目標を攻撃可能である上に、迎撃されてもいくつかの弾頭が生き残って攻撃を果たせる可能性があるため、米国やロシア、中国など、核戦力をもつほとんどの国が実用化し、実際に配備している。
また、打ち上げ能力が大きいということは、ポスト・ブースト・ヴィークルと呼ばれる、着弾地点を修正し、より正確に落とすことができる小型のロケットを搭載したり、迎撃ミサイルをかわすためのデコイ(おとり)や撹乱装置を搭載したりすることができる余地もあるということになる。
もっとも、火星15型が登場したからといって、これまでと比べて著しく脅威の度合いが上がったというわけではない。
火星15型のターゲットである米国には、洋上やアラスカなどに迎撃ミサイルが幾層にも配備されており、迎撃できる体制を整えている。
さらに今回の発射の前日には、北朝鮮によるミサイルの発射準備と考えられる信号を、日本などが探知していたことが報じられている。つまり米国などは発射の準備段階からその動きを探知し、監視を続けていたということであり、万が一のときには迎撃、あるいは先制攻撃できる準備も行われていたのだろう。
また、これまでの発射実験と同じく、弾頭の再突入に成功したかは不明で、核の小型化と同じく、再突入体の開発にはまだ成功していないという見方が強い。
そもそも火星15型は新型ミサイルなので、まだ信頼性もない。彼らが実戦配備するまでにはあと数回の発射実験が必要だろうし、実際に実戦配備と見なせる、他国のミサイルと同等までの信頼性を確立するまでには、さらに多くの時間と追加の実験が必要になろう。
とはいえ、これまでより重くて大きな弾頭を、より遠くへ、それも米本土全域にまで飛ばせるミサイルが生まれたことには注意すべきであろう。並行して進んでいる核の小型化や再突入体の開発と合わせれば、核が米国本土に達するのも計算上の仮定の話ではなく、近いうちに現実の話となろう。さらにこのまま技術開発を許せば、より大型のミサイルや、より探知されにくい、短時間で発射できるミサイルなどに発展することにもなる。
<文/鳥嶋真也>
とりしま・しんや●宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『
イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。
Webサイト:
http://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info(
https://twitter.com/Kosmograd_Info)
【参考】
・Statement by Pentagon Spokesman Col. Robert Manning on North Korea ICBM Launch > U.S. DEPARTMENT OF DEFENSE > News Release View(
https://www.defense.gov/News/News-Releases/News-Release-View/Article/1382158/statement-by-pentagon-spokesman-col-robert-manning-on-north-korea-icbm-launch/)
・防衛省・自衛隊:北朝鮮による弾道ミサイルの発射について(第2報)(
http://www.mod.go.jp/j/press/news/2017/11/29b.html)
・North Korea’s Third ICBM Launch | 38 North: Informed Analysis of North Korea(
http://www.38north.org/2017/11/melleman112917/)
・North Korea’s Longest Missile Test Yet – Union of Concerned Scientists(
https://allthingsnuclear.org/dwright/nk-longest-missile-test-yet)
・North Korea’s Third ICBM Launch | 38 North: Informed Analysis of North Korea(
http://www.38north.org/2017/11/melleman112917/)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。
著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。
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