なぜ上司や先輩の激励は響かないどころか逆効果なのか? 「能動的にやれ!」という激励がダメな理由

 そうであれば、「能動的に○○しろ」と、語尾を命令形にしないで、「能動的に○○しましょう」と言えばよいのではないかという反応に接したことがある。確かに「○○しろ」という命令形よりも「○○しましょう」と意志形の表現の方が、後輩を受動的にする度合いは低い。しかし、意志形であっても先輩という相対的に強い立場にいる人が、後輩に対してこのフレーズを使ったら、暗黙の命令の意図が相手に伝わる。そのため、能動的な行動を阻害し、相手を受動的にさせる効果をもたらしてしまう。  相手を能動的にさせたかったら、「能動的に○○しろ」はおろか、「能動的に○○しましょう」とすら、言わないほうがよい。このようなフレーズは決して使わない方がよい。これが、フレーズを使えば使うほど、相手が踊らなくなる原理なのだ。

拡大質問で能動性の質を高める

 後輩を能動的にさせたかったら、「能動的に○○しろ」「能動的に○○しましょう」ということを一切言わず、「Aの行動をしたいか、Bの行動をしたいか」という答えがどちらかに限定される限定質問を繰り出し、相手に選ばせる。これにより後輩は、選択するという能動的な行動を発揮する。  これまでトップダウンの指示ばかりをしていて、能動的な行動をさせていない後輩に、突然、「AとBだったらどちらをしたいか」と問えば、後輩が返答に困ってしまう状況に陥るかもしれない。あるいは、先輩の指示待ち行動が染みついてしまっている後輩であれば、先輩はどちらをさせたいんですかと逆に聞いてくるかもしれない。  そうした場合には、後輩の返答を、辛抱して待つという耐性が先輩には必要だ。  そして、選択肢の提示に後輩が慣れてきたら、今度は、答えが限定されずさまざまな返答に拡大していく可能性のある拡大質問により、「何をしたいのか?」と問いかける。後輩は、自分が実施したい行動を思い起こし、これを表現することを行う。まさに能動的な思考と表現を相手に起こさせる質問なのだ。 【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第60回】 <文/山口博> 【山口 博(やまぐち・ひろし)】グローバルトレーニングトレーナー。モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)、『クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい、2017年8月)がある。
(やまぐち・ひろし) モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社新書)、『クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社+α新書)、『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)がある
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チームを動かすファシリテーションのドリル

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