アルゼンチン海軍、潜水艦サンフアンからの最後のメッセージを隠蔽していたことが発覚
そのメッセージの本文を和訳してると、このようなことが書いてある。
「吸排気システムから海水がバッテリーが収納されている3番のタンクに侵入して、電気のショートとバッテリーが配置されている台で初期的火事を引き起こした。船首のバッテリーは使っていない。分割回路で潜水中だ。乗務員に問題はなし。報告を継続する」
前出のコベジは、最後に<報告を継続する>と表現したことは重要だと指摘している。なぜならば、危険な状態でないとすれば、<新しい変化があれば報告する>とでも述べたはずだというからだ。
このメッセージは15日の午前7時30分に発信されてていた。つまり、それからおよそ3時間経過した後に、爆発音がCTBTOによって傍受されているのである。
問題はそのメッセージの内容が危険を孕んでいたにも拘わらず、海軍は規定に従ってそれから48時間が経過するまで捜査活動を開始しなかったことである。海軍の指揮上層部により危機意識があれば、その数時間後にサンフアンからの報告がないとなった時点で捜査活動を開始していたはずだ。
しかし、捜査活動を開始する前まで、バルビ報道官は<潜水艦が危険な状態にあるという兆候は見られない>と発言していたのである。(参照:「Clarin」)
アルゼンチンの代表紙である「Clarin」は、28日付の記事で、主筆のリカルド・キルチバウムが、“指揮上層部の責任だとでも呼べるような問題がある。それは一つの決まりが過酷なほどに守られているということである”と指摘している。すなわち、海軍の規定のほうが実際の状況判断によって取るべき行動よりも優先されるという不条理な法則を批判しているのである。
また同氏は、このサンフアンからの最後のメッセージについての情報が報道関係者に漏れたというのは政治的なにおいが強くするとも指摘している。恐らく、責任追及がどの方向に向けられるべきか具体的に示したものだろうと述べている。
乗組員の家族らは、依然として海軍本部で用意したホテルに宿泊しながら安否を待っている。その家族の中でも、今も無事生還を期待している家族と全員死亡していると判断している家族との間に亀裂が生じつつある。(参照:「Pagina12」)
乗務員でソナー担当のヘルマン・オスカル・スアレスの夫人イタティ・レギサモンはあるテレビ番組の取材で「(乗組員の)家族は余りにも無知で、彼らが今も生存していると思っているのだ」「未亡人として受け入れることを決めた。他の彼女らも残念ながらそうなのだ」と語ったことが災いして、海軍本部に戻った時に殴られそうになったり、また別の数人から侮辱されるようになったそうで、本部を去って帰宅することに決めたという。
セルソ・オスカル・バリェホスの姉妹の一人は、無事な生還を願って断食を始めたという。そして、「潜水艦で起きたことは、我々がどこまで信仰を続けることが出来るのか試すための神様との挑戦だ」と述べ、皆が団結すれば奇跡も起きると感じているという。
安否についてはかなり厳しい状況にあるが、待っている家族へのケアも必要とされている。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。
爆発音傍受の3時間前に発信されていた
安否を待つ乗組員の家族に走る亀裂
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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