「お菓子の城」を運営する山陰地方の10倍株企業「寿スピリッツ」の原動力

2年前からインバウンドを明確に打ち出す

 しかし、同社の2014年3月期の有価証券報告書を見る限り、この時点でインバウンドという言葉は見当たらない。“出雲大社の「平成の大遷宮」行事により観光客が増加傾向にある山陰地区において主力商品「因幡の 白うさぎ」の販売強化、20周年を迎えた「お菓子の壽城」のイベント開催など地元対策の強化に努めました”とあるように、増加傾向にあった観光客には訪日外国人観光客も含まれるかもしれないが、訪日外国人観光客をターゲットとしたものではなかった。  翌年同期の有価証券報告書でも、インバウンド対策の言葉は見当たらないどころか、”出雲大社の遷宮効果の反動減により、「お菓子の壽城」をはじめとする山陰地区の売上高が前期に比べ大幅に落ち込みました”という記述が見られるほどだ。  インバウンドの文字が同社の有価証券報告書に見られたのは、2016年3月期の有価証券報告書だ。これによれば、2015年に、経営スローガンとして『ワールド サプライジング リゾート宣言(WSR)』(世界へ、ありえないほどの驚きの、超感動を提供する)を掲げたと記されている。グループ会社である北海道のケイシイシイによる、道内店舗及び国内主要国際空港でのインバウンド対策、販売子会社による関西国際空港でのインバウンド対策の強化などが挙がっている。また、【対処すべき課題】として、「インバウンド対策の強化」が挙げられており、国内主要国際空港における販売強化、外国語表示対応、消費税免税対応などが具体的な施策とされている。  これ以降、国内主要都市空港の国際線ターミナルでの卸販売の強化、および、北海道及び首都圏での直営店を中心に消費税免税対応及び外国語表示対応を推進など明確にインバウンドに関連する記述が見られるようになるのである。  寿スピリッツのインバウンド関連事業は、2015年の経営スローガン『ワールド サプライジング リゾート宣言(WSR)』(世界へ、ありえないほどの驚きの、超感動を提供する。)が転機になったようである。  もちろん、今回は、インバウンドに焦点を当てて、寿スピリッツの飛躍を見てきたが、インバウンドは同社の成長要因の一部に過ぎない。山陰の『お菓子の壽城』、東京の『東京ミルクチーズ工場』、北海道の『ルタオ』(運営会社は前出のケイシイシイ)、九州の『赤い風船』といった地域性及び専門店性を追求したショップブランドを構築・展開していることこそが、寿スピリッツの成長のカギなのだ。寿スピリッツの本社は山陰にあるが、事業展開は山陰に限定されたものではないのである。 <文/丹羽唯一朗>
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