消息を断ったアルゼンチン潜水艦は、なぜこのような事態に陥ったのか?

困難を極めた大修理

 この修理改善がいかに困難を極めたか、11月17日付のアルゼンチン紙『Clarin』がそれを指摘している。それによると、古いエンジンを取り外し、新しい4つのエンジンを設置するのに潜水艦の胴体を二分する必要あったというのである。それを再度ジョイントする時の複雑な作業。また、625項目に亘る作業の中には4組の発電機を設置することや、960個あるバッテリーの修理や取り換え、バルブの修理、その他メカニズムの改善など、最初に完成した時の性能にできるだけ近づけ、そして乗組員の安全を確保するに寸分の狂いも認められなかったのである。結局、ほぼ6年の歳月を要する工事となったのである。  しかし、如何に工事がパーフェクトに行われたとしても、新しい潜水艦と違い、32年が経過している潜水艦である。性能上において予期せぬ事態に巻き込まれる可能性は新しい潜水艦よりも遥かに高い。  しかも、今回の航海の前にも40日以上修理でドッグに入っていたというのである。  このポンコツ具合を証明するかのように、アルゼンチンで初の女性潜水艦将校になったエリアナ・クラフチックは乗艦する前に兄弟との電話<潜水艦に問題があって修理が必要だったと語ったと報じられているほどだ。(参照:「Hispan TV」)  そもそも、アルゼンチン海軍には3隻の潜水艦しかなく、3隻ともほぼ同じ80年代のアルゼンチンで軍事政権が続いていた時代に、ドイツのティッセン・クルップ社で建造されたものだ。その中で、このポンコツなサンフアンが最も新しい潜水艦だというのは驚きである。  修理改善したといっても、それが完全に修理できたという保障はない。しかも、30年以上も経過している潜水艦を現役として航海させるのは乗務員の安全と性能を考慮した場合に異常であろう。
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古い機種だという認識に欠けていた軍部
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