LINEモバイルの提供元はDTNであり、戦略はDTNの意向が強いという。
タイのMNOは5社が存在するが、このうち加入件数ではAISの子会社のアドバンスト・ワイヤレス・ネットワーク(以下、AWS)、トゥルーの子会社のトゥルー・ムーブHユニバーサル・コミュニケーション(以下、TUC)、そしてDTNの大手3社だけで9割以上を占める。大手3社で1位がAWS、2位がDTN、3位がTUCの状況が長く続いたが、2016年第2四半期にDTNはTUCに逆転されて3位に転落した。DTNは2017年第3四半期まで6四半期連続で純減が続き、200万超の顧客が流出してトータル・アクセス・コミュニケーションの業績にも影響を与えた。
大手3社で一人負け状態のDTNが打ち出した挽回策のひとつがLINEモバイルなのだ。LINEはタイで絶大な人気を誇る。LINEモバイルでは当然ながらLINEを無制限に利用できる。また、指定日までに加入すると12か月間は半額の料金で使える。強力なLINEのブランドと低廉な料金を組み合わせて顧客獲得を図るのがその狙いである。
AISやトゥルーの猛反発から分かるように、LINEモバイルは競合他社の脅威になり得るが、LINEモバイルだけでDTNに好転をもたらすことは難しそうだ。
というのも、タイでは、LINEをはじめとするSNSを無制限に利用できるプランは競合他社も提供しているからだ。また、半額期間が過ぎれば料金面での魅力は薄れる。そのため、長期にわたり顧客から支持を集められるかは不透明なのだ。
タイ・バンコクにある「dtac」の販売店
また、通信網にも課題がある。NBTCは2015年と2016年に周波数オークションを実施したが、入札価格が高騰してDTNは落札を断念した。一方、AWSとTUCは周波数を落札して通信網の高度化を急いだ。タイでもデータ通信の需要が拡大する中で高品質な通信網が求められ、実際に大手3社のうち通信網が劣るDTNは顧客を減らし続けた。貧弱な通信網でLINEモバイルを提供しても顧客は満足しないだろう。
まずは通信網の整備が急務で、DTNもそれを理解している。DTNはトータル・アクセス・コミュニケーションの少数株主でもある国有企業のTOTより周波数を借用し、通信網の強化を急ぐ計画を発表している。快適に利用できる通信網を整備してこそ、LINEモバイルが武器になり得るだろう。
<取材・文・撮影/田村和輝>
たむらかずてる●国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報に精通。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ