プロも驚愕する動画ストリーミング企業のコンテンツ。松江哲明が注目したドキュメンタリー作品とは?

イタリアのポルノスター引退までの日々

ロッコ:ポルノスター宣言』はイタリアの加藤鷹とでも呼びたくなる、ベテランポルノ男優が引退するまでの日々を記録した。
ネットフリックス02

『ロッコ-ポルノスター引退宣言』

 幼い頃から性欲が強く、1000本を超えるポルノに出演し、街を歩けば握手を求められるスターであり、良き夫、または父親でもある彼の実像も魅力的なのだが、本作が印象的なのはまるでアート映画のように撮られた美しい映像だ。  ロッコのセックスは暴力的で、女優を選ぶ際にもMであることを重要視しているのが分かるのだが、その現場をポルノビデオのようなアングルでは撮らない。セックスをすることの美しさだけでなく罪深さまでも捉えようとするかのように陰影が強烈なのだ。上半身だけでなく、下半身までも露わになっているが(劇場公開されたならばボカシは必然で、成人指定は免れないだろう)、卑猥さを強調するようなものではない。ベネチア映画祭で上映されたのも納得させられる完成度だ。 『マイ・キングダム:家族が教えてくれたこと』は父を自殺で亡くした一家の物語。取材のカメラだけでなく彼らが残していたホームビデオも重要な素材として使われている。基本的にそれらは記念日や楽しい思い出として残されている。だからこそ痛みや苦しみが伝わってくるのだ。
ネットフリックス03

『マイ・キングダム:家族が教えてくれたこと』

 父親がふと、遠くを見つめているとき、彼は鬱と戦っていたのだろうか、と僕らは想像させられる余地が本作にはある。だが喪失を描くだけのドキュメンタリーではない。残された家族たちのたくましさと絆の深さ、そしてそれでも父を愛し、感謝していることが伝わる作品だった。ここまで深く感動したのは僕が父親になったことも大きいかもしれない。または残された子どもたちに感情移入をする人もいるだろう。このように観客によって感じ方が変わるのも優れたドキュメンタリーの条件だ。
次のページ 
ドキュメンタリーを観る環境は中心は配信に
1
2
3